国崎 往人・柏木 楓


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ざわめく木々。
鳴く虫たちの声。
生い茂った草むら。
俺にとって、その中に在る事は極自然な事だった。
旅から旅を繰り返し、屋根の無い場所で眠る事の方が多かった。
だが、その生活の中に在った自由は、今は無い。

殺し合いを強要されている。

この島から生きて、脱出する為には自分以外の全員を殺さなければならないそうだ。
想像しただけで、胸糞悪い。そして、それ以上に骨の折れる話だなと思う。
高槻という男の話によると。この『ゲーム』とやらの参加者は100人いるらしい。
勿論、99人の人間を殺さねばならない事もないだろうが。それにしても、疲れる話だった。

「さて…どうするかな」

呟いてはみたものの、答えは既に出ている。
俺は死ぬわけにはいかない。
翼のある少女を探し出すまで。

支給された荷物を漁る。
中からは、ごつい銃と説明書が出てきた。
銃の名前は『デザートイーグル』らしい。名前だけは聞いた事があった。
説明書に目を通し、弾の装填の練習をし、手に馴染ませる。

ガサリ……。

その時、僅かに下草を揺らす音がした。



……私は、特に当てもなく彷徨っていました。
柏木の家で、千鶴姉さんや梓姉さん、初音…そして、遊びに来ていた耕一さんらと一緒に過ごしていた日々。
何事も無く過ぎていく日常の中から、突然この島に放り出されて。
気が、動転していたのかもしれません。
道無き道を闇雲に歩き、姉さんたちを、初音を。…最愛の人を捜していました。

ガチャリ。

鈍い音に、私は驚き足を止めました。
横合いから、耕一さんと同い年くらいの人が私に…拳銃を構えているのが、見えました。



「動くな」

俺は、ごく自然にその言葉を発していた。
我ながら、中々堂に入ったものだと思う。
目の前の少女を、油断無く観察する。
整った顔立ちをした、大人しそうな子だ。だが…この島にいる以上、この子もまた、参加者なのだろう。
引き金に、力を込める。



男の人の指に、力が篭っていくのが、私にはスローモーションのように感じられました。
あのトリガーを引かれたなら、私は死んでしまう…。

「待ってください!」

私は無我夢中で男の人に呼びかけていました。
私の今、知り得る情報の全てを纏めて彼を説得しなければ…私は、殺される。
それだけは…嫌。私は…。

「私に…私に協力してください!
この島を脱出する為に…」

「俺は、この島を生きて脱出する。
その為に…お前を殺す」

「私は…私は、誰も殺したくありません。
話の通じない相手には、そうも言ってられないかもしれませんけど…」

とすっと、手にしていた荷物を放り投げます。
今からこの荷物の中身に頼っても、その前に撃ち殺されるのが関の山。

「私は、私と貴方…皆が生きて、この島を脱出する方法を探します。探したい、です。
…私には、姉妹がいます。…一人になるまで殺しあって、一人だけ生き残るなんて事できません…」

それに…それに、私には…。
……私は!!

「…私には、大事な人がいます!!その人と…生きて、帰りたいん、です…」

胸から溢れる言葉をそのままに。
目から流れる雫をそのままに。



俺は、自分で思っていたより気が動転していたらしい。
良く考えればなにも高槻とかいう男の言いなりになる必要はこれっぽっちもないのだ。
現状では決して、崖っぷちにまでまで追い詰められてる訳でもない。
確かに制限時間までに、誰か一人でも死ななければ全員が…とかいう話だった気もするが。
だからといって、俺が率先して殺していけば…そう、きっと、俺は取り返しのつかない事になる。
それに、気づかないとはな…。よほど、動揺していたのか。

彼女の言う台詞を全て鵜呑みにした訳じゃなかった。
恐らく、いいとこ半分ほどはハッタリだろう。今思いついたでまかせ…とまではいかないかもしれないが。
何かの根拠があるわけでも、目処が立っている訳でもない…。
大概において、人を簡単に信用すれば、馬鹿を見る事になる。
それは、俺の経験則だった。だが…。

「…俺の名前は、国崎 往人。お前の名前は?」

俺はゆっくりと銃を下ろした。
彼女の最後の言葉と共に、零した涙の雫だけは。
信じられる。
彼女は、涙を拭おうともせずに、ほっとしたように微笑んでいた。

「柏木…柏木 楓です…」

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