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機変


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歩道を行く影が一つ、
氷上シュンである。
彼は観鈴を晴子に預けたあと、
ただあても無く歩いていた。
それでも、意味も無く殺し合いに参加することだけはしない、
そう、心に誓っていた。

むしろこの状況に順応できず、
愚かにもゲームのってしまった人間に
わけもわからないうちに殺されていく人間も多いのではないか。
そう思った。

恐い。
確かに恐い。
でもそれ以上に痛い。
心が痛い。
それはつい昨日まで笑いあっていたような友達が
次の瞬間どこにもいなくなってしまう恐怖。
そして、
そのような友達と呼べる人間が、
殺す側に回ってしまうという恐怖。

違う。
絶対にそんなことは間違っている。
シュンは思った。
みんなで生き残る方法がどこかにあるはずなんだ。
そのためには、みんなで協力しなくてはならない。
殺しあうなんていけない。

本当の敵は、このゲームを仕組んだ連中なのだから。

既に幾人もの命が奪われている。
本来なら一刻の猶予もならない。
しかしシュンには策が無かった。
一人で首謀者のところに乗り込んでいっても、
あっさり殺されるだけだろう。

死にたくない。
いや、もともと余命幾ばくも無かったこの体だ。
もうそれはいい。
せめて、無駄死にはしたくない。
おそらく僕はここで死ぬだろう。
誰かに殺されるかもしれない、
その前に体が限界に来るかもしれない。
だけど、僕がそうなっても
まだたくさんの人間が”ここ”に残される。
彼らに何か残しておきたい。
特にも、浩平君には。

考える。
何度も頭を悩ませる。
しかし総じてそれは、
何もできないという結論に落ち着いてしまう。
せむかたもなく、シュンは歩いていた。

「永遠の世界ですら、ここよりは近い場所だったと思うよ」

シュンは一人ごちた。


肩にずっしり重い荷物。
中身を見ても、シュンには良く分からなかった。
「貧乏くじだったのかな」
苦笑する。
でも逆に拳銃とか、刃物でなくて良かったとも思う。
そんなものを扱いたくはないし、
扱えるとも思わなかったから。

整備された歩道を歩く。
森の中や、島の中心近く……いわゆる山を行くより、
よほど楽に行ける。
だがそれに反して足取りはひどく重い。
気持ちというのはこういうところに現れるものなんだな。
シュンは改めて理解した。

百人という人数――もうその数ではなくなったが――がいたというのに、
なかなかほかの人間のと会わないものだ、と思う。
「……いや、殺しあうくらいなら顔をあわせないほうがいいか」

その時、

ヒュンッ。

何かが旬の横を掠めていった。

ズギュゥゥゥン!!

耳を劈く突然の轟音。
「なんだ!?」
飛んできたもの……、レーザーか何かだ。それが後ろから!?
あせって後ろを振り向く。
歩道脇から生い茂っていたはずの木々が、
”それ”が突き抜けたらしきところだけ綺麗に蒸発していた。

「僕が狙われているのかっ!?」

シュンはあせった。
再び視線を前に戻してみる。
すると、
「な……」
彼は言葉を失う。
ちょうど歩道をまたいで反対方向、
さっきまで何の変哲も無く平凡に存在していたはずの民家。
それに、大きな穴が貫通していたのだ。

「どうしたのだ先行者っ!?」

森のほうから聞こえた人の声。
それはとてもあせっていてそう、
叫びだったと言い換えてもいいだろう。

「ぐっ!」

シュンは駆け出した。
この程度の距離なら大丈夫、走れる。
それに、明らかにさっきの声は「困っていた」。
なら、いかなくちゃ。

シュンは森へと踏み入った。
そこで見たものは……。

ヴィー―ッ、ガチャッ。
ヴィー―ッ、ガチャッ。

「貴様っ! 人語を解するというのはフェイクだったのか!?
 我輩の言うことを聞かんか!」

なにやら薄っぺらい本のようなもの――たてに丸めている――を片手にさけんでいる、
緑髪にギザギザメガネの男。
そして、
あからさまにやる気が無い顔をした、
一回り人間より小さいくらいの大きさで、
なぜか”機敏”に”ガニマタ”で”駆け足”をし、
なおかつ股間から不可思議なもの――まさかこれがさっきの……?――を突き出した、
そう、子供の工作だよとさも言いたげなな外見をした、
ロボットらしきものの姿だった。

「おのれ中国政府め! せっかく支給されたというのに、
 これでは台無しではないか!?」

九品仏大志であった。

相当あせっているようで、いまだシュンの存在に気付いていない。

……しかし、
あのやる気の無い顔に、本気で食ってかかる大志の姿。

あやしい。
いや、
あぶなすぎる。

大志自身の姿もなかなか怪しいが、
横にあのロボットが並ぶと、
相乗程度ではきかないほどの怪しさを振りまいている。

「メイドインチャイナは伊達ではないとでも言いたいのかっ」

彼の行動をそっと観察してしまうシュン。
彼がもっているのはあれの仕様書のようなものらしい。
そしてどうやらそのロボットの名前が……、

「はっ!? まさか中国語で無いと認識しないとでも言うのか!?
 いや、それでは先ほどまではなぜ我輩の言う通りになって……。
 答えるのだ先行者ぁッ!」

……そう、先行者。

ちょ、ちょっと笑えちゃうな。
シュンは口元を抑えた。

しかしあれが先ほどのレーザーの元だというのなら、
その外見の滑稽さなど、話にならない恐るべき脅威となる。
しかもそれが、彼のセリフを聞くに、どうも暴走している。


……まずいよね、やっぱり。

シュンは大志のすぐ後ろによって言った。
「あの〜、そこの人?」
「ぬぅっ、何だ貴様!? 我輩は今忙しいのだ、
 後にしてもらおうか!」
「でもそれ……」
「殺されたくないのであればさっさと消えるのだ!」
「それをほっといたほうがよっぽど危ないですよっ」

きゅうぅぅぅぅん、

「まずい、第二射の充填が終わった!?
 伏せるのだっ!!」
大志はシュンの体をけり倒し、自分もすぐに地面にうずくまった。

先行者の股間に光が集まる、そして……。

ドシュゥゥーーーン!!!

第二射は放たれた。
いくつもの木々をなぎ倒し、
そのビーム―――レーザーよりもふさわしいだろう――は
突き抜けていった。

「恐るべきはその火力よ。
 同士瑞希を灼いたときから分かってはいたことだが、
 まさかそれが自分に降りかかってこようとは思いもよらなんだ」
大志は心底感心した様子だった。

シャカシャカと音を立てて、先行者が再び動き出す。
「吸収、充填、発射の三動作を繰り返すか、正に永久機関だな。
 大地の気を吸収するというのは冗談ではなかったのか!?」
「何なんですかそれは……」
苦笑しながら答えるシュン。
恐ろしさが半分、面白さも半分。
買ったく難儀な奴だよ、先行者。

「しかしこのままほおっておくわけにもいかん。
 青年、我輩に手を貸すのだ!」
「え、ええ。そのつもりです。でも具体的にどうすれば……」
「あれを見よ」
そういって大志は先行者を指差す。
「あれは今大地の気を吸収している。
 そう、先ほどの中華キャノンの元となるエネルギーだ。
 理論的に考えれば、あれを止めることができれば
 中華キャノンを撃つこともまた不可能になる」

……あれが、ねぇ。

「もともと我輩が手にした武器だ、その始末くらいは我輩がする。
 ただ……」

「……ん?」

「もし我輩がここで死ぬようなことになったら、そのときは青年。
 我輩の代わりにどうしても守ってもらいたい人間がいる」

「誰なの?」

「そう……、恐れ多くもそのお方の御名は桜井あさひとおっしゃられる。
 我輩が最も崇敬する女神!
 我輩はそのために、人道も、そして友も捨てた……」

似つかわしくない憂いた瞳。
この男もまた傷ついていた。

「我輩の意志を……継いではくれぬか?」

シュンは笑顔で答えた。
「分かった。僕がその人を、いや誰も殺させやしないよ」

本当にそれが成せるかは分からない。
しかしそれがシュンの素直な気持ちだった。

「あなただってまだ死ぬとは決まっていない。
 いや、そんなに大切な人がいるならなおさら生き残らなくちゃ」

「青年……。いや、それでいい。我輩もまだ死ねぬな」
大志は決意も新たに、先行者へ向き直る。

「具体的にどうするんです?」
「簡単なこと。こうするのだよ、まいぶらざー!」

大志は地を蹴った。
そして一気に先行者に組み付く。

「ぬん!」

先行者のバックを取り羽交い絞めにする大志。

ばたばたと足を動かす先行者がまるでもがいているようで。
やっぱり滑稽だった。

「青年! 今のうちにこれの動力を止めるのだ!」
「で、でもどうやって?」
「これのキャノン付近に電源ケーブルがある、
 おそらくその付近がウィークポイントだ!」
大志は言いつつ、先行者ごと地面に倒れこむ。

「く……」
意を決して接近するシュン。
「……ある」
確かに、それらしきプラグの差込口があった。
ならばこの辺が……。

パカ。

「へ?」
カバーが外れた。
そこにあったのは、四個の単一電池だった。
「まさか……」
と思いつつ電池を外す。すると、

プシュゥゥ―――。

音を立てて先行者は動きを止めた。

いいのか、こんなんで……。
しばしシュンと大志はその場で呆然とした。

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