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「…ここまで来れば、大丈夫でしょう」
水瀬秋子(090番)は、走るのを止め月島拓也(059番)の方に振り返る。

「出来れば、戦わずに事を済ましたいんだけど…そうはいかないようね」
「そんな木の棒でどうするつもりなんですか? もう、先は見えてます…
 大人しく殺された方が苦しまずに逝けますよ」

「…それはどうかしら。いくら素晴らしい銃を使おうと、当たらなければ意味は無いんですよ。
「この私がこの距離で外すとでも言いたいのか? 残念だがその望みは捨てた方が良い」
眉間に正確に狙いを定め、そう尋ねる拓也。

「あっ、そういえば…。さっきから瑠璃子ちゃんって言ってましたっけ?」
「…お前が瑠璃子の名を呼ぶな」
「綺麗な少女だったわね…」
「! 何処にいるのか知っているのか!?」
「ええ…。綺麗な少女だったわ…。最後まで」
「…なっ、なんだと…?」
「今頃、お空の上であなたを待ってるんじゃない? ふふ…」

「きっ…、きっ…、きさ…ま。貴様ああぁぁァァァァッッッ!」
その言葉を引き金に、銃弾も発射された。
だが、怒りによる痙攣のせいで狙いは逸れ、銃弾は明後日の方向に突き刺さった。

「ガアァアァァァ!!」
2発目を撃ち込もうと、狙いを定め直す拓也。
だが、既にその場所に秋子は居ない。

「…ハァァッ!」

ドスッ。
44マグナムは、只の鉄屑となり果て地面に落ちた。
秋子の持つ、つい先程まで木の棒だった筈のそれは鈍く銀色に光を放っていた。

「アアアアァァァ!」
グリップと引き金のみが残るマグナムの引き金を、ひたすら引き続ける。
「もう…。終わりましたよ」
だが、止まらない。何が起こったのか気付いていないのかもしれなかった。

「………」
無言で、仕込み杖の刃を納める。
そして、懐から大きなビンに入った謎の液体を取り出した。
何処にそんなものを隠し持っていたかは秘密だ。
「今は、ゆっくりと眠りなさい。大丈夫。あなたの大切な人はまだ生きている筈だから…」
そう語りかけると謎の液体を取り出し、拓也の口の中に思いっ切り詰め込んだ。
………

バタッ!

「さて、と。早く帰らないと。あの子達が心配してるかもしれないし…」

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