母と娘


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はぁはぁ・・・・お母さんもう走れないよ」
「観鈴、がんばるんや」

薄暗い林の中、神尾晴子(023) 神尾観鈴(024)は謎の相手と交戦、逃走中であった
相手は巧妙だった
常に一定の距離を保ち、じわりじわりと追い詰めていく
まいたかと思えば、五寸釘が飛んでくる
「くそっ」

手に持ったトカレフを釘の飛んできた方向に向かって連射するが、何の手応えもなく
またしばらく経つと、どこからともなく5寸釘が飛んでくるのだ

こうして逃げ続けること自体が奇跡であった、
2人の前方の視界が開ける・・・・・


そこには流れこそ緩やかであったが深い川が立ちはだかっていた

もはや、親子に逃げ場は無かった


林と違い、身を隠し弾を装填する場所は無い・・・・・
晴子はトカレフの残り弾数をチェックする
「残り2発・・・・・・」


藤田浩之(077)は余裕だった

奇襲こそ失敗したが、こうして追い詰めた
相手の弾が切れるのを待って、蜂の巣にしてやる
ダイナマイトを使えば早い話なのだが、うかつな事にライターのガスが切れていた
まぁいい・・・・・もはや時間の問題だ

がさがさ・・・・

「!!」
たまらず晴子は音の方向に銃を発射する
「あと1発か、あかんこれじゃ思うつぼや」
無駄弾を使わせ、装填する瞬間を相手は狙っているにちがいない
そしてもはや打つ手は無いことを晴子は悟っていた
これまでか・・・・・・・
ズブリ・・・・わき腹に焼けるような痛み
案の定釘が飛んできたのは反対側の方向からだった

自分が死ぬことに恐怖は無かった
だが・・・・・観鈴はどうなる
敬介もすでに死んだ今、自分まで死ねば誰が観鈴を守る
しかしこのままでは、2人とも死ぬ
守る、なんとしてでも
あらかじめ2人分の荷物をまとめておいたデイバッグを観鈴の肩にかける
「ええか、観鈴あんただけこっから飛び降りるんや」
「いやだよ・・・・お母さんも一緒だよ」
「あほう、2人とも飛び降りたら誰がヤツを食い止めるんや、川の流れがゆる過ぎてええ的や、それにこのケガじゃ泳がれへん」
「が・・・がお」
「どうしても2人じゃないとあかんか・・・・・・しゃあないそれじゃ目ぇ閉じて1.2の3で行くで」
「う・・・うん」
「いくで、いちにの」
「さん」
その言葉と同時に晴子は観鈴を谷へ突き落とした
期せずして、痺れをきらした浩之の釘打ち器がうなりをあげる
全身を五寸釘に貫かれ、晴子はスローモーションのように地面に倒せふす
「あとは・・・・・たのんだで・・・・いそーろー」

手間取らせやがって、まぁそこそこ楽しめたが・・・・・・
浩之は憮然とした表情で林から姿をあらわす
ずいぶん釘を使っちまったな、まぁいいそこにある死体から何本か拾えばいいか
川の流れからいって、あの金髪はそれから追いかけても充分殺せる
気をうしなってるのであろう・・・・ぷかぷかと流されていく観鈴の姿は浩之の目から充分確認できた
浩之は晴子の死体から五寸釘を引きぬきにかかる
その刹那・・・・

息絶えたはずの晴子の右腕が動く
ずぎゅぅぅん・・・・
最後の一発が浩之の右手を直撃した
浩之は何が起こったのかわからないままにとりあえず右手を見てみる
親指を残してすべての指が吹き飛んでいた、視覚情報とともに激烈な痛覚が襲ってくる
「ぐおおおおおおおおおおっ」
そればかりではなく、晴子の体は浩之の行く手を阻むかのごとく
彼の体にしがみつき離れない

「てめぇ、いいかげんにしろ!!」
左手で握った釘でむやみやたらに晴子の体を刺し貫く
それでも晴子の体は浩之から離れようとはしない
ようやく振りほどいたときには、すでに観鈴の姿はどこにも無かった


あまりにおぞましい光景であったが・・・・・
それは紛れも無く娘を思う母の愛が生んだささやかな奇跡であった

藤田浩之・・・・右手使用不能
神尾晴子(023)死亡
【残り63人】

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