冬の、終わり
「遅くなったな……名雪」
祐一はまずそう言った。
「悪かったな……、あの時とは反対だ。
結局、俺は逃げてばっかりだった」
「……いいよ。
――祐一」
名雪――秋子はにこっと笑って答えた。
もう、動くところは首より上だけ。
それだけの満身創痍。
でも――。
「戻って、来てくれたんだから」
――彼女は笑みを絶やそうとしない。
「なあ、……俺はどう償えばいいんだ?」
本当は分かっていた――。
秋子さんでも、名雪でも――。
彼女が語る思いは、どれも真実で――。
「……ダメだよ、祐一」
俺は、それに応えなくちゃいけないってことに――。
「もう決めちゃったんだよ……」
「そう……なのか」
「うん……」
「イチゴサンデー、十個でも、か?」
「もう、イチゴサンデーは品切れ」
秋子の笑顔は、とても柔らかで、穏やかで。
「でも……いいの。
分かった……。
戻ってきたあなたは、本当の祐一。
結婚式はあげられなかったけど、
祐一が居るなら――」
かろうじて立っていた秋子が、
いきなり崩れ落ちようとする。
「秋子さん!?」
駆け寄って、倒れる前に抱き寄せて。
そして、なんとか秋子を支える。
「ほら……また……」
「……ん?」
「お母さんじゃ……ないよ。
名雪、だよ……」
「……そうだな」
秋子の腹から突き出た刀が、ちくちくと痛い。
だがそんなことも気にせず、
祐一も、秋子も強く抱きしめあう。
「……ホントはね。
きっとこれで良かったと思うんだ。
ただ、こうして抱きしめてもらえれば、
それだけで――」
すっ、と秋子の体から力が抜ける。
だが祐一は、秋子の体を強く抱いて離さない。
・
「――ありがとう、祐一さん――」
・
止まる。
ようやく止まる。
痛みだけで彩られた、
悲しい、紅い雫が。
果たせなかった想いを解き放って。
とうとう……消える。
【水瀬秋子 死亡】
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