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束の間の奇跡


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北川の手の釘打ち機から放たれた釘はスフィーの右肩をかすり、
スフィーのはなった弾丸は北川の頬を掠めた
「うっ」
「くっ」

わずか5メートルの距離をもって2人は対峙している。しかし、
激情にまかせた最初のトリガーを引いて、そしてお互いを傷つ
けたという事実に。傷ついた痛みに、お互いが躊躇していた。

−−−−−すごく大きな音がしたネ
−−−−−なんの音だろうネなんだかネズミ花火みたいだったヨ

失っていきかけていた意識の中で、レミィの眼は何も見えていなかった

−−−−−あれ、ジュンだヨ。なんか怖い顔してる。


追い求めていた人の顔だけが、暗くなりかけている視界の中でレミィに
とって意味のあるものになる。

「………ジュ、ン………」
抱えていたレミィが不意にそういった。焦点の定まらない瞳で、北川の
最愛の人の顔を覗き込もうとしている。
「………ダメ、ダヨ。ジュン。………」
「ばかっ! 喋るな!」
既に心臓は動いてない。脈も無い。束の間の奇跡でしかなかった。北川
は手にした釘打ち機を取り落とすのも構わず、レミィを抱えなおす
「ジュ、ン。・・・笑ってた。ほう、がイイ、ヨ」
肺に残った空気を搾り出すように、途切れ途切れにつぶやくレミィ。
「くそ。笑えってのかよ。笑うさ、どうだよ」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら北川は笑って見せた。涙がレミの血だ
らけの体に降り注いでいた
「………カ、カッコ、イイ、ヨ。ジュン。こ、怖い顔はNOダ、ヨ。い
つまでも、ワラッ、テ………」

−−−−−ジュンは笑っていたほうがずーっとカッコイイヨ。
−−−−−だからワタシはジュンに笑っていて欲しいヨ。


最後の方は言葉にならなかった、北川を見ようとしていた瞳も動かない。

「おい、レミィ、起きろよ。レミィ。レミィ………」
顔をグシャグシャにして泣いていた北川はレミィを手にしたまま天を仰い
だ。
「う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
涙を流しながら悲痛な声で絶叫する北川。声は意味をなさずただ叫ぶだけしかできない。

そして、レミィは完全に沈黙した。北川は、まだ暖かいレミィの体を、そっ
と地面に横たえようとしていた。

気が抜けたように二人のやり取りを見ていたスフィー。は振るえる手で拳
銃を握り締めていた。今までは敵だったはずの北川とレミィなのに、何故
かスフィは引き金を引けない。


「くそっ。くそっ。ダチが苦しんでいるのに。おれは何してるんだよ!」
祐一は必死で暴れていた。後ろ手に縛られ柱に固定されてる縄さえなんと
かなれば。何ができるかわからない。それでも、友人が苦しんでいるのを
黙って見ていたくはなかった。からだの動かせるところは全部動かす。縄
にあたるところは全て擦り切れ血がでていた。

 ちょっとづつ縄は緩んでいた。あとちょっと・・・

「う、うおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「きたがわぁぁ!!!」

北川の叫びに、祐一の声が重なる。その瞬間、祐一の手は縄を抜けていた。
皮はべろべろになってしまっていたが、そんなことはどうでもよかった。

北川は、レミをそっと横たえた。
「………おい」
レミィの瞳を閉ざす
「………撃てよ」
北川はレミィの手を胸の前で組んだ。

「―――っくうっ!」
北川の言葉に反応して銃を構え直すスフィ。

「こいつ――レミィは。俺に笑えっていったんだ。笑ったほうがカッコイイっ
てさ。こんな、こんな狂っちまった場所でも………だから」
北川は、顔をスフィの方にむけた。その顔は涙でグシャグシャで、そしてスフィ
のつけた傷からは血が流れていたが、なんとも壮絶な笑顔だった。

「俺は、人を撃つ時に笑ってなんてできねぇ。だから、俺は、なにかをする為
に笑顔でいれなくなるなら、レミィのいってたように笑顔でいるさ。だからも
う抵抗しない。笑って死んでやるさ。生きるために人を殺すなら、笑って死ん
でいく。もう決めた」

 北川の目は、笑顔の中の北川の瞳には、決意が見て取れた。

「なによ・・・・」
スフィの体ががぶるぶると振るえる。
「なんでそんな事言うのよ。撃てないじゃない。だって、いいひとだもの。いい
人ってわかっちゃうんだもの。でも、でも・・・」
スフィーのからだの震えが大きくなり、その瞳から大粒の涙が溢れる。
「でも、だけども、結花はもう死んじゃったんだもの。結花はっ!」
そのときだった。
「きたがわぁぁぁっ!」
自力で縄を抜け出した祐一が叫びながらレミィの前で膝立ちになっている北川を
突き飛ばす。
「くっ!」

その祐一の行動に反応するようにして引き金を絞るスフィ。
ズキューーーーーーン。
しかしその弾丸は、北川の左側の地面を抉っただけだった。

「芹香さん・・・」
スフィーの視線の先には、逃げ出したと思っていた芹香がたっていた。銃身を押して、
狙いをそらさせたのだ。
「………………」
なにごとかをスフィにつぶやく。
「もうやめよう、って………でも結花は」
「………………」
ゆっくりと首を振る芹香。
「………………」
「そんな事をしても結花は喜ばない。でも、もうその結花が死んじゃったんだよ!」
 理屈ではなかった、スフィに銃を持たせていたのは怒りではなく悲しみで、そ
の悲しみの行き場が北川だったのだから。
「………………」
さらにスフィーに向かってなにごとか話す芹香、
スフィーは銃を取り落とすと、芹香の胸で泣きじゃくる。


まるで、幼い子供をあやすようにスフィーの頭をなでる芹香。そして視線を祐一と
北川の方に視線を向け、ゆっくりと口を開く。
「………………」
「行けっていうのか。俺達に」
コクリとうなづく芹香。
「………………」
「そうだな、お互い、今一緒にいてもいいことはないだろうな」
祐一が呟く。お互いの取り返せない喪失を思って。

【北川潤、相沢祐一、スフィー&来栖川芹香とは別行動】

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