Should Deny The Divine Destiny of The Destinies


[Return Index]

「私が、殺すの?」
 郁未は虚ろな目をしながら往人に銃口を向けている。
「ああ、そうすれば楽になれる。僕と一つになれる」
「あなたと、一つに……」
『カシャ』
 引き金に指をかける。
「こうすれば、もうつらい思いはしなくなるのね」
「郁未さんっ!!」

『ガンッ』
 ホール内に銃声が響く。
『カラララッ』
 銃が床をすべる音がそれに続く。
『ポタッポタッ』
 腕から血が滴り落ちる。

「これはどういうことかな?郁未」
「見たままのとおりよ。私はもう迷わない。あなたを救ってあげるわ!」
 入り口の近くで観鈴が腰を抜かしている。
「郁美さん………」
「ありがとう観鈴。あなたの声って目が覚めるわね」
「み、観鈴…」
 往人がうめきながら言う。
「観鈴、あなたはこの人のことお願いね」
 そう言い放つと郁未はベネリを構えなおし少年に向けて撃つ。
 しかし、そこに少年の姿はもう無く、少年は外に飛び出していた。
 郁未も続けて外に出る。

「往人さん!」
「無事、だったんだな」
 つらそうに往人は声を搾り出す。
「うん、郁未さんと一緒だったんだよ」
「そうか…、すまんが少し眠い。すこし眠っていいか?」
「えっ?」
 観鈴は一瞬不安になったが往人がすぅすぅと寝息を立てるのを聞きほっと胸をなでおろした。
「よかった」
 観鈴の頬に一筋の涙がつたう。


「分が悪いな」
 外に飛び出した少年はすぐに森に身を隠そうとしていた。
 いくら女二人とはいえ銃を持ったもの二人を相手にするのは具合が悪すぎた。
「待ちなさい!」
 少年が振り返るとそこには郁未が銃を構え立っていた。
「追ってきたのかい?」
「もう、終わりにしましょう」
 悲痛な顔をした郁未がそこに立っている。
「さっき、彼を撃っていればそんなつらい思いしなくてもすんだのに…」
「そうね、そうすれば私の心は壊れていたでしょうから。
 でも、それは私じゃないもの。私は私が私で無くなってまで生きたいとは思わない」
「つらい選択だね」
 その言葉を最後に少年は一気に間合いを詰める。
 郁未は鞄からバルサンを取り出し煙を放出させる。
 煙を前に少年は一瞬躊躇する。
 その隙に煙に紛れ郁未は木に登る。
 そして少年がいたと思われるところに銃を向け撃とうとする。
 しかし、ゾクリと背中に悪寒が走りはっと後ろを振り返ると、
 少年が微笑を浮かべながらそこにいた。
 次の瞬間、郁未は吹き飛ばされ、木から落ち、地面に転がる。
 その衝撃で銃も遠くに転がってしまう。
 身を守るものが無くなった郁未にゆっくりと少年が近づく。
 辺りにはバルサンの煙が立ちこめている。
 そして郁未は起き上がりながら鞄をがさがさとあさり、ロケット花火(笛付き)を取り出していた。

「そんなものでどうしようというんだい?」
 郁未はロケット花火に火をつけ少年に投げ付けようとする。
 しかし狙いが定まらないのか、それは少年の遥か後方にいき、
『ヒュルル〜、パン』
 と、情けない音とともに破裂した。
 少年はそれを振り返ろうともせず、
「『もう終わりにしよう』郁未はさっきこう言ったね
 でも、郁未には僕を殺せない。例え、君がどんな銃器を持っていようとね。
 違うかい?」
 と、微笑を浮かべながら言った。
「ええ、そうね。きっと私にはあなたを殺せないでしょうね」
「それじゃ、どうやって終わらせる?
 残念だよ、郁未。君には僕といっしょにいきてほしかったのに!
 まあ、姫君の分身を持つ人間はきみだけではない。
 最後は僕の手で眠らせてあげるよ。」
 偽典の一枚を破り、それで郁未の首に斬りかかった。
『ザシュッ』
 血が吹き出る。
 辺りを取り巻いていたバルサンの煙は風に流され、それはほとんど無くなっていた。

 振りかかったものは郁未の首筋にに深深と突き刺さっていた。
「最後に言っておくよ、愛していたよ。郁未」
 血を流す唇に口付けをする少年。
『ドンッ』
 鈍い音がする。
 唇を離す二人。
 そして郁未は彼を強く抱きしめる。
「さっき、言ったわよね。私にはあなたを殺せない
 そのとおりよ。だからそれは別の人にしてもらうことにしたわ」
 郁未は血を吐きながら呟く。

「おお!なんだ?いまのは?敵襲?ミサイル?
 びっくりして思わず撃ち返してしまったじゃねえか」
「……!!…!」
「なに?もっと撃て?じゃないとやられる?」
「…!」
「わかったよ、撃てばいいんだろ?」
 そう言って、北川はデザートイーグルを先ほどなにかが飛んできた方に向けて撃ち始めた。
 フランクも地面に落としていたライフルを拾い撃った。


「今の弾は僕を貫通してるぞ、郁未」
「ええ、そうね。わたしにもあたっているわ」
「どうして!?そうか、煙は身を隠すためでなく僕に周りを見せないためだったのか…
 そして、ロケット花火で僕の位置を知らせたわけか…
 すばらしい連携プレイじゃないか」
「はじめから狙ってたわけじゃないわ。
 あなたを追う途中で銃を構えてた人を見かけたからもしかたらと思っただけ…」
「いちかばちかの賭けに出たということか。郁未らしくないな」
『ドンッドンッ』
 少年の体に銃弾が突き刺さる。
 それはもちろん貫通して郁未の体にも突き刺さる。
 外れた弾が二人の周りを通過する。
「私も言っておくわ。愛していたわ。いえ、愛しているわ」
 ふたりの唇が重なる。

「いっしょにいきましょう」

 そして、二人は抱き合いながらその場に倒れ、再び起き上がることは無かった。



【天沢郁未、少年、死亡】
【残り18人】

[←Before Page] [Next Page→]