燃え尽きる命


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一人の少女がモニターの画面を見つめている。
その画面に映っているのは一人の青年。
「こやつは余を殺そうとしたからの。楽には死なせぬわ」
少女はそう言い捨てると最早何も映さなくなった画面に背を向け出口へと向かった。
  
 
―――ブン―――
少女が部屋から出ていったのを確認したかのようなタイミングで起動音が響きわたる。
「ふぅ、危ないところじゃった」
そう呟く。
「あの嬢ちゃんが何やらやらかす前に出来うる限りのデータをHMに移植しておいて正解じゃったな」
HMのカメラでワシの本体の様子を見渡す。
マザーコンピュータの状態は中破。
CDの解析データは移しておるがこのままCDを起動させるのはほぼ不可能じゃな。
そう結論づけたワシの目に入ったのはあの北川の坊主の死体。
そう言えばCDの起動プロテクトが外れたのもあの坊主が死んだのとほぼ同時じゃったな。
不思議なこともあるもんじゃ。あの坊主は魔法など使えないはずなのにのう。
不思議がるワシの目の端で白い物体が動いた。
 
『クッ、………内蔵がやられちまったらしいな』
そう呟いたとたん口から血を吐き出した。
『ク…ソ!あの野郎!……ぽちまで殺していきやがって』
ポテトとの誓いは結局守れずじまいか。
だが………、まだ終わるわけにはいかねぇ!
俺はふらつく足取りで一歩一歩そらの倒れている所に近づいた。
『そ……ら』
まともに声も出せない。
反応は無いみたいだがどうやら死んじゃいねぇみてぇだな。
俺ももう死んじまうだろうがこいつをあの女の所に連れていく約束だけは守らねぇとな。
出ないとポテトともぽちともあの世で顔向けできねぇからな。
俺はそらの体を口にくわえると出口へと向かっていった。

分からん。
全くもって理解不能じゃ。
あの猫にしろこの坊主にしろ行動が分からないの。
あのHMが人間の気持ちが分かりたいと言っていたのもこういう考えからじゃったからかの。
ならば………ワシも理解してみるか。
ククク、全く高槻のヤツめ。厄介なウィルスを仕込んでいきおって。
ウィルスは駆除できてもこの人格変化は直せなかったようじゃな。
こんな非論理的な答えを導き出すんじゃからな。
ワシはマザーコンピューターに人格プログラムを戻した。
この本体に残った全機能をフル稼働させればひょっとしたらCDを起動させることも可能じゃろう。
じゃがそれをやれば間違いなくワシは本体ごと御陀仏じゃ。
それでもこの選択がワシの理解できない人間の感情を理解できる可能性ならばやってみるかの。
ワシはスーパーコンピュータ、G.N.じゃ!
ワシに分からんことなどあることは許されんからの。
ワシはCDを4枚とも読み込み始めた。
 
CD1起動―ポイントAにデータ転送
本体損傷率30%突破
CD2起動―ポイントBにデータ転送
本体損傷率50%突破
CD3起動―ポイントCにデータ転送
本体損傷率75%突破
エマージェンシー
CD4起動―ポイントDにデータ転送
本体損傷率90%突破
対神奈消滅プログラム起動
プログラム終了まで残り30分
 
………フン、どうやら成功のようじゃな。
ま…ぁ、ワシならば当然の結果じゃな。
じゃ…が、やはり…、理解不能じゃった。
死とは………消滅のこと…じゃろう、………するとそこで終わりのはずじゃ。
そんな選択を…するのは………馬鹿げておるわ。
ワシが………こんな選択…をするのも……馬鹿げて…おるわ!
……これ、も………全部…バグの……せい…じゃ………な。
で………も、まぁ………
お……もし…ろかっ………たから…いい……か……………
―――ブツン―――
その音を最後に部屋に静寂が訪れた。



『………ここは?』
ぼくが目を覚ました所は倒れた部屋の中ではなかった。
ここは………そう、ぼく達がここに最初に侵入したときに使った通気口があったところだ。
『………よう、そら。ようやくお目覚めか』
『ぴろ君?君がぼくを………』
ぴろ君の様子を見てぼくは絶句した。
ぴろ君は口から大量の血を床に吐き出して倒れていた。
『ぴろ君!大丈夫か!?』
『………ヘッ、大丈夫に………見えるか?』
ぴろ君が弱々しい声で強がる。
『あの女に………やられちまったよ。ぽちも………』
『そうか………』
ぼくのせいだ。
ぼくが二人を連れ出さなければこんなことにはならなかった。
『そら………、あの女は……外に行ったみたいだ。お前…も、追いかけろ』
『ぴろ君?』
『何、変な…顔、してんだ。……お前、その為にここから………飛び出したんだろ?』
ぴろ君はそう言うと口から血を吐き出した。
『ぴろ君!』
『チッ、どうや、ら………ここまで、みてぇだな』
『ぴろ君。何故ぼくを恨まないんだ?ぼくが君たちを連れ出さなければ死なずにすんだかもしれないじゃないか!』
『馬鹿………言ってんじゃ……ねぇよ。言った…だろ?………お前について…いったのは俺の意志だ。お前が気にするな』
ぴろ君は一気にそう言うと苦しそうに息をした。
『んじゃ、……先…に、ポテト……に、謝って……くるぜ。…約束………守れなかった…から……な』
『………』
『………お前は、まだ来るんじゃ、ねぇぞ。生き……残って、ちゃんと……「彼女」を守って…やれよ』
『ぴろ君!』
『………じゃあな、戦友』
ぴろ君はそう言うとゆっくりと目を閉じた。
『ぴろ君!ぴろ君!』
その顔は安らかだった。
最後までぼくの事を気にかけてくれていた。
 
………行こう!
ぼくはぼくのやるべきことをやらなくちゃ。
いつかぴろ君達の所に、親友達と会った時に胸を張って会えるように。
………ありがとう、ぴろ君。
ぼくはそう言い残すと通気口から施設の外へと飛び立った。
彼女を、観鈴を捜すために。
 


【G.N. 完全消滅】
【ぴろ 死亡】
【そら 観鈴を捜しに行く】

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