最後のプログラム
激しく鳴り響いていた爆発音や銃声が止んで、
ここメインコンピュータールームは恐ろしいほど静まり返っていた。
ブゥ……ン――――
「……終わった…ようじゃな」
GNの目の前に凄惨な光景が再び広がっていた。
北川と、赤く染まった白き蛇の残骸。
「さて……と」
ウイルス駆除も成功したというのに、何故か釈然としなかった。
一度犯された機械というのは脆いものなのかもしれない。
神奈備命が消え、GNの思考ルーチンが最終段階へと移行した。
今の今までGNすらも知らなかった最終プログラムの概要が流れ込んでくる。
「最後の大仕事、じゃな。あまり気は進まんが、許せよ」
有無をいわさず、コンピューターの中に植え付けられた最後のプログラムを起動し始めた。
神奈備命が滅した今、GNへのそれは強制力として働いた。
飛行艇が没した今、唯一の脱出手段である潜水艦は『ELPOD』だけだ。
島全体の施設の現情報を集めながら、そのプログラムを進めていく。
さすがにこの島のFARGO残党が何人残っているかまでは確認できなかったが
少なく見積もっても、数十人の生き残りはいるはずだ。
「あいつは、生きていたら一体どうするつもりだったんじゃろうか」
あいつとは源之助を指す。
長瀬の内何人がこのプログラムのことを知っていたかは分からないが、
少なくとも源之助は知っていたはずだ。自分がこの事を知っているのだから。
源之助自らは逃げおおせていたのかもしれないし、自分もここに留まる気だったのかもしれない。
さらに、島の外にも生き残りのFARGOが確実にいるだろう。
源之助がそいつらをどうする気だったかまでは知らないが、そこまではもうGNが関知するところではない。
(これはGNすらも知りえぬことだったが、島の外にいたFARGO及び長瀬一族は事実上壊滅していた)
最初からすべては源之助の作り上げたシナリオであったということ。
最初からFARGOを生かして返すつもりなどなかったということ。
最初から今回のゲームに生き残りを残す気などなかったということ。
「目的の為には犠牲も厭わない。恐ろしい男じゃな、まったく」
そして、最後のスイッチを押した。
「ワシも、あやつらにひどく感化されたもんじゃ…
このスイッチを押すことがこんなにも辛いとはの。
じゃが、最後の管理者として、任務を遂行する」
『緊急警報、緊急警報、この島の大爆発まであと30分――
繰り返します。この島の大爆発まであと30分――
島の全住人はすみやかに脱出して下さい。
繰り返します――』
女性の声が島へと鳴り響く。あらかじめ録音したあったHMX-13、セリオの声だった。
島全体が震動で揺れ動き、ボロボロになった室内はそれだけで少しずつ崩れ始めていく。
「ワシの仕事もこれで終了じゃ。――願わくば、彼女らには生き残ってほしいの」
再び島全体がせわしなくなった。
ややあって、遠くで何か大きな爆発音が鳴り響いた。
GNが起爆させた、潜水艦『ELPOD』の本当の最期。
それを確認して、GNは動くことをやめた。
【GN 沈黙】
【潜水艦『ELPOD』大爆発・炎上】
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