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一億の女


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 折原浩平(014番)は川名みさき(028番)に傷口の洗浄と止血といった簡単な応急手当を施した後
再び森の中を移動をして隠れるのに都合の良さそうな茂みを見つけるとしばしの休息を取る事にした。
幸いみさきにはそれほど酷い怪我はなかった。
移動中にお腹は鳴りっぱなしだったが。
2人はしっかりと手を繋いだまま腰を下ろした。
「再会は腹音と共に……か。先輩らしいけどな」
「こんな事になるなら昨日カツカレーをもっと食べておくんだったよ」
「鞄の中にパンが二つほどと水の入ったペットボトルがあるぞ」
「え? そうなの。私全然確かめてなかったんだよ」
そう言ってみさきは自分の鞄の中身を片手でごぞごぞと漁り始める。
「他にも色々と入ってるけどな」
「あ、本当だ。いただきます」
そう言ってあっという間に一つ目のパンを消化してペットボトルに口をつける。
「先輩俺のも食べていいよ」
同じく水を飲んでいた浩平は苦笑しながら自分の鞄からパンを取り出す。
「……いや我慢するよ。この先何があるか解らないからね。もう一つは後に残しておくよ。」
と言って小さいガッツポーズをとるみさき。
「あんまりおいしくないけどね」
ぺろっと舌を出した。
「先輩の荷物、見てもいいかな。武器の確認をしておいた方がいいと思うし」
「う、うん、いいよ」
みさきの鞄の中に手を伸ばす浩平。
しばらくごそごそと中身を調べていたがその手が止まった。
「……先輩……駄目だ先輩の支給武器はハズレだったみたいだ」


「何だったの? フォーク? それともスプーンとか?」
「いや……福沢諭吉のブロマイドだ。それも束で大量に……こんなモノ何の役にも立たないぞ」
「ちょっと貸してみてよ浩平君。へー最近のブロマイドって凄く薄くてかなり長方形なんだね。紙みたいだよ」
「そうなんだ、そういうタイプが今流行なんだ。ちゃんと一枚一枚シリアルナンバーもついてるぞ」
「なんだか左下の方にわずかな丸いでっぱりが2つあるみたいなんだけど」
「ああ、初版だからな。プレミアつくかも知れないな」
「……」
「……」
しばしの沈黙の後みさきが突然空いている片方の手を伸ばし浩平を探り当てるとその存在を確かめる様に
ぺたぺたと体に触れてきた。
「せ、先輩何を……」
その手が浩平の頬をとらえた所で止まる。
「……」
「浩平君……えい!」
持っていたそれで浩平の頬を叩いた。
ぱし
情けない音がした。
「前々から一度札束でビンタってのをやってみたかったんだよ」
そう言って満面の笑みを浮かべるみさき。
「……あのなぁ〜ってやっぱり分かったのか、札束だって」
「うん、そりゃ分かるよ。浩平君声が笑ってたし。浩平君はやっぱり嘘が下手だね」
「一束一千万だろうから、十束で一億円って所だな。凄いぞ先輩、大金持ちだ」
「本当にちゃんとしたお札みたいだし、これでカツカレーも食べ放題だね」
「今度からゴージャスみさきと呼ぶ事にしよう」
二人でひとしきり笑った後、再び沈黙が訪れた。


「浩平君……これから私達どうなるんだろ」
ぽつりとみさきが呟く。
「さっきの女の子だよね、どうなったの? 死んじゃった……の?」
重い沈黙。
「あの娘の制服のスカートは切れ込みが凄かったよ。座る時は気を付けないとパンツが見えそうだ」
「……」
「オレの弾はあの娘には当たってないよ。威嚇しただけさ。尤もちゃんと撃っても当たるかどうかは自信ないけどな」
「そう、良かったよ」
安堵のため息を吐くみさき。
「先輩、殺されかけたってのにのん気なもんだな」
「だってあの娘もきっと怖かったんだよ。震えてた。混乱してただけだと思うよ」
みさきはそっと浩平の肩に頭を預けた。
「やさしいな先輩は」
「浩平君には死んで欲しくないけど、浩平君が誰かを殺す所なんて見たくないよ。見えないんだけどね」
「……オレもこの歳で人殺しになる気はないんだけどな。けど先輩を」
浩平の言葉を遮るようにみさきは顔を上げ真剣な顔になる。繋いだ手に力がこもる。
「私きっと足手まといになるよ。この目じゃ移動するのだって一苦労だし。
 守ってもらうくせに誰も殺さないで欲しい、けど死なないでなんて、わがまま……だよね」
「努力するさ」
口ではそう言っておく事にした。いざとなればオレは、オレの大切な人達を守る為なら……
「有り難う浩平君……」
みさきは浩平の胸に顔を埋めた。
「オレは先輩の側にいるよ。ずっと。先輩を……守るよ」
最後は流石に照れくさかったがこれだけは、本当に、心に、誓った。

「さて、本当にこれからどうしようか先輩」
話題は一番最初に戻っていた。
「うん、やっぱり殺し合いは……始まってるんだよね」
「ああ、嫌な言い方かも知れないが多分ほとぼりが冷めるまでどこかにじっと隠れているのが
 生き残る上では一番いいと思う……けど、先輩はどうしたい?」
「きっとこんな中で、この島であんな状況で浩平君に会えたのは奇跡だよ。そう思ってる。
 もう1、2回奇跡を願ってみるのは贅沢かな?」
「澪に雪見先輩か」
「うん」
「分かった。正直オレも幼馴染みやクラスメート達とは合流したいと思っている。出来るだけみんなを探してみよう
 そしてなんとかここから脱出する方法を考えよう」


浩平は鞄に入っていた地図を広げて考えていた。
そもそも自分達が今何処にいるのか正確には分かっていないのであんまり意味が無いような気もするが
何か今後の指針が見つかるかも知れない。
地図には学校や教会、灯台やら様々な施設のマークが記されている。ここは人がちゃんと住んでいた島でそれらの施設は
残っているという事なのだろうか。
しかしみんなを探すとは言ったものの特定の誰かをこの島から見つけるのはおそらく無理だろう。
自分達2人が運良く出会えたのは本当に奇跡かも知れなかった。
後は危険だが運を頼りに闇雲に動き回るしかないのか。
「私の武器ももっと役に立ちそうな物だったらよかったのに。
 お金なんていくら大金でもこんな所じゃきっと諍いの元になる事はあっても使い道なんかないよね。」
残念そうにみさきが言う。
「生きて帰ったらみんなで豪勇さ。勿論先輩が奢ってくれよ」
「うん、わかった。まかせてよ。そんな使い道なら大歓迎だよ」
「使い道か……そうだ、念のために体に仕込んでおくなんてどうだ」
「え? 札束を」
「そうだ、気休めかもしれないけど、漫画なんかでよくあるだろ、胸のペンダントが銃弾を止めたってやつ」
「そんなにうまくいくかな」
「何もしないよりはマシだろ、これで時間を止められてナイフの雨霰にさらされても先輩は大丈夫だって」
「よくわからないけど、やってみるよ」


みさきが制服をたくし上げて札束を胸に入れようとしていた手が止まった。
「浩平君、向こう向いてるよね」
「勿論だ。さぁ思う存分詰めてくれ。なんなら手伝ってもいいぞ」
「何か声のする感じが違うような気がするんだけど」
「他人のそら似だ」
「それは私のネタだよ。さ、手を出して浩平君」
「へ?」
「はい」
5つの札束を浩平の手に置く。
「半分は浩平くんの分だよ。浩平君もやっておいてね」
「わかったよ」
後ろを向いて浩平は制服の内ポケットや腰のポケットに札束をつめた。
これはどこかでテープか紐でも手に入れないと体に集中させて防弾チョッキ変わりにするのは無理そうだ。
そもそも本当に銃弾が止められるかは妖しいかも知れないが。

「とりあえず少しずつ移動していこう」
そう言って浩平はみさきの手を取ったまま立ち上がって言った。
右手には一億円の女性(今は5千万だが)左手には己の支給武器である小型拳銃。
2人は寄り添うようにゆっくりと移動を始めた。

「そうだ先輩、杖を耳に当てて百メートル先の敵の動きを察知してくれ」
「なんだかよくわからないけど嫌、というか無理だって言っておくよ」



【折原浩平(014番)川名みさき(028番)移動】

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