男、また一人


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怖いよこわいこわい…ひろゆきはすごいよやっぱり僕の思った通りだ、
その気になればなんだってできるんだ怖いよ。人だってころせるし僕を殺すこともできるんだ。
あかりちゃんが好きになるのも分かるよ。でも今の浩之に渡せない、護りたい。
会いたい、ずっと会いたい。好きだから。ずっと好きだった人だから。
殺されるのは嫌だ殺すのも嫌だあかりちゃんの為に死ねないし死にたくない。


雅史はあきらかに錯乱していた。
絶対的に信じていた浩之に裏切られ、雅史の精神は既に破綻しているといっても過言ではなかった。
本来ならもうあそこで一歩も動けずに殺されていたのだろう。
雅史という男にはもう、というか元々このゲームは重すぎた。

動けた理由。
ただ、今はあかりへの想いだけが彼を動かしていた。
走りながら、白い粉を持つ。
「スーパーマンになるんだ、今はもうあかりちゃん護れればいいんだそうだだから――」
す――っと体内に入れる。一呼吸の吸引どころか、飲んでしまった。食べてしまったといった方が良かったかもしれない。
ただ、あかりを護りたい、悲しい思いだけはさせたくないと心から願って。


怖いよこわいこわい…ひろゆきはすごいよやっぱり僕の思った通りだ、
その気になればなんだってできるんだこわいこわいよひとだってころせるし僕を殺すこともできるんだ
あかりちゃんすきになるのもわかるよああひろゆきはあかりちゃんとおにあいだけどああ
ぼくはあかりちゃんにあいたいよあいたいまもりたいひろゆきのかわりにまもりたいなああぼくのあかりちゃん
たべたいあかりちゃん――



悲劇というのは自分が起こってほしくない悲しい結末になってしまう悲惨な出来事だとよく言われる。
雅史にとってそれはまさに悲劇の連続だった。

彼にとっての一番の悲劇はこれから起こることとなる。

だが、『今の彼』がそれを悲劇と思うかどうかは別問題だった。

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