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修羅〜序章〜


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どこかで読んだ事のある風景。巷で話題となっている本と同じように殺人を強要される風景。
そして本と同じように額に投げナイフを受け、仰向けに倒れる女の子。

「いったい吾輩の身に何が起きたのだ」

同人で世界征服を本気で考えている九品仏大志(034)にとって、自分が今置かれている現状は頭では理解していた。
ただ、現実にはありえない、本の中の世界だと思っていた事が実際に自分の身に降りかかると言う異常な状態に、現状を認識出来ないでいると言うよりも、
現状を認識したくはないといった響きが多分に含まれている。
表面上は、いつもと何ら変わりのない大志であったが、珍しく我を失いかけていた。
そんな中でも、次々と参加者の名前が呼ばれ、いかにも現状を把握しかねていると言う顔をして、
ただ兵士に言われるがままに次々と教室を後にしてゆく。
それでも、いきなり名も知らぬ少女が殺され、未だに混乱の中にある周りのほかの参加者よりも、
かなり早い段階でいつもの冷静さを取り戻していた。そして冷静になった頭で周りを見まわす。
同士である千堂和樹(053)の活動を通じて、見知った顔が数人確認できたが、
その場の状況が声をかけることを許さなかった。
すぐに声をかけることを諦めた大志は、今だ続く周りの喧騒をよそに前日の記憶を辿ると言う作業に没頭する。しかしその作業はすぐに中断する事になった。


「034番、九品仏大志」
「……」
「034番、九品仏大志はいないのか」

自分の考えの没頭していた大志は、兵士に自分の名を呼ばれている事に全く気がつかない。

「034番、九品仏大志。早くこい」

三度目の呼びかけとともに、名も無き兵士が大志の机へと歩み寄る。
依然として自分の世界へ入っている大志は頬杖をついたままである。

「034番、九品仏大志」

大志の目の前に立った兵士が、それまでよりもいっそう大きな声で大志の名を呼ぶと同時に、
大志の胸座を掴み強引に立ちあがらせる。

「何やってんだお前。呼ばれたらさっさとこんか」

大志よりも顔半分くらい小さな兵士が、ぐっと大志を睨みつける。
それまで何の反応も示さなかった大志が、高圧的な兵士の視線に反応する。

「ぴいぴいと五月蝿い。名も無き兵士風情が、この吾輩に命令するとは片腹痛いわ。
吾輩に命令できるのはこの世でただ一人、心の女神桜井あさひちゃんだけだ。
分かったら散れ、この雑兵が」

それだけ一気にまくし立てると、大志に虚仮にされて震えている兵士には一瞥もくれず教卓へ歩を進め、
荷物を受け取り出入り口の扉をくぐる。

「桜井あさひか。そのあさひちゃんとやらもこの島に来てるぜ。
…せいぜいそのあさひちゃんが死体にならないように、必死になって探すんだな。
…へへへ、いい気味だ」

それまで屈辱に肩を震わせていた名も無き兵士が、今まさに教室を出て行こうとする大志の背中に
言葉をぶつけた。
動きの止まった大志であったが、それもほんの一瞬の事で、
すぐに何事もなかったかのように教室を後にした。


「まさか、あさひちゃんまでここに来ていようとは。
なんとしても吾輩が守ってあげなければ」
 
教室を出るときこそ、何事も無かったかのように振舞った大志であったが、
実際に、あの兵士の言葉を聞いての動揺は、
自分がこのゲームの参加者になってしまったと認識させられたとき以上のものがあった。
どんなに自分が汚れようとも、勝者となって必ずや再びあさひの顔を拝んで見せると言う断固たる決意。
あの短い時間の中で、大志が心の中に秘めた思い。
しかし、去り際に兵士の口から発せられた衝撃的な事実は、そんな大志の決意を根本から覆すものであった。

「参加者は100人と言ったな」

しかし大志に迷いは無かった。

「そう、吾輩とあさひちゃん以外の98人、いやもうすでに一人死んでいるから残りの97人を殺せば良いのだな。
…そのくらいの事なら、あさひちゃんの為にやって見せる」

この瞬間、大志は決意を固めた。あさひちゃんを絶対に生かしてこの島から出す事、
そして、自分自身は生きてこの島からは出ないと言う事を。

このゲームの参加者の中で唯一、この島から生きては帰らないという悲しい決意を固め、今動き出した。

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