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修羅〜絶望〜


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「同人で世界征服と言う夢は儚くも散ったが、あさひちゃんの為に吾輩の命を捧げるというのも、
それもまた吾輩らしいかな」

誰に言うわけでもなく呟き、九品仏大志(034)は自嘲気味に笑う。
言動に芝居がかった所はあるが、常に自分のなすべき事を的確にこなしてきた大志であったが、
今はただひたすらに、そして闇雲にあさひを探すと言う行為に夢中になっていた。

実際に探していた時間はそう長くはなかったが、
大志にとっては永遠に等しいくらい長い時間のように思えた。
しかし、あさひはおろか他の参加者の顔さえも見る事が出来ない。
散々探し回っているうちに額や首筋に汗が滲んでくる。
照りつける太陽を恨めしげに見やり、そしてその汗を手で拭う。

「一刻も早くあさひちゃんを探さなければ。これ以上あさひちゃんに寂しい思いをさせてはおけないからな」

太陽はひたすらに大志に降り注ぎ、一瞬ごとに体力を削り取って行くが、
そんな事はお構いなしに大志はこの広い島の中をさ迷い続ける。


その時ほんの一瞬、背筋の凍るような殺気が後方から大志に向けて投げかけられる。
その殺気と同時に、何か物を投げる風切音が聞こえてきた。
すぐに後ろを振り向く。何か先の尖った物が、大志をめがけて正確に飛んできた。
危険を察知した大志は、すぐに自分の左前方に広がる茂みに飛びこんだ。

「ぐっ…」

ほんの一瞬の差で先の尖った物―ナイフ―の直撃を避けた大志であったが、
それでも完全によけきる事は出来ず、右の上腕部から血が滴り落ちる。
大志の右上腕部の肉を軽く抉ったナイフは、前方の地面に突き刺さった。
ナイフの直撃を避け、すぐに茂みの中からナイフの飛んできた方向に再び目を向けようとする。
そこには一人の女が立っていた。

「あの女、確か岩切花枝とか呼ばれていたな」

我を失いかけ、混乱していた時の記憶の中から、自分よりも少し前に教室を出た女の名前を導き出した。
そして、この後に及んで大志は初めて、自分があさひの為に残りの97人を殺す決意を固めたにもかかわらず、
あさひを探す事に夢中ななるあまりに、武器の入っているバッグの中身を確認するという、
戦闘をする上での最低限の準備を何一つしていなかった己の浅はかさに気がついた。
その事実に気がついてすぐ、飛びこんだ際に前方に投げ出されたバッグを引っつかみ、
外見の格好悪さもいとわず逃げ出した。自分を襲ってきたあの女―岩切花枝―を殺してやりたかったが、
すぐに自分の置かれている状況を判断し、戦略的撤退と言う道を選んだ。
こんな所で息絶える訳にはいかなかった。



自分が投げたナイフがかわされるという、予想だにしなかった展開に舌打ちをする岩切であったが、
すぐに気を取りなおす。

「まさかナイフをかわすとはね。簡単に殺せそうな奴を選んだつもりだったのだが、
人は見かけに寄らないものね。でも少し掠ったみたいだし、まあいいわ。
ちょっと面倒だけど、とりあえず止めをさしておこうかしら…」

大志の反撃を警戒しながら、慎重に先程自分が投げたナイフを地面から引き抜いたが、
人を殺めるという技を極めたその感覚が、すぐ近くに複数人の気配を感じ取る。
複数人の気配を感じた方へ意識を持っていっている間に、
ガサッと音を立てて大志が逃げ出したのを目の端に捉えた。

「……、まあいいわ。あの男もそんなに長くないし」

一瞬追いかけて止めをさそうかと考えたが、
追いかけている合間に坂神蝉丸のような強者と相対する危険性を考え、
大志を追うのを諦め、自分の得意なフィールドである水場を探すことにし、
そっとその場を後にした。
 
 
 
「あんな女が参加しているとは、一刻も早くあさひちゃんと逢わなければならないな。
それにしても武器の確認を怠るとは、吾輩とした事が、あまりにも迂闊ではないか。
こんな事であさひちゃんを守ろうとは片腹痛いわ」

暫く走って、岩切が追ってくる気配が無い事を悟った大志は、近くの木陰に腰を下ろした。
その時、傷口が痺れるような感覚に襲われた。


「あのナイフに毒が塗ってあったと言うのか…」



道を極めた者(オタク道)にしか持ち得ない感覚。その感覚こそが、武道に精通していない大志に、
ほんの一瞬投げかけられた殺気を感知させ、ナイフの直撃を回避させると言う、
一種の奇跡に繋がったわけであるが、しかしその奇跡もそこまでであった。
 
後方から投げかけられた殺気に反応して振り向いてしまった。
風切音の正体を掴むために、ほんの一瞬だけ、ナイフの軌跡を追ってしまった。
0コンマ1秒にも満たない時間。たったそれだけの時間の判断の遅れが、
あさひの為に残りの97人すべてを皆殺しにするという決意を無に帰してしまった。


「吾輩があさひちゃんを最後まで守ると言う事はどうやら難しくなってしまったようだな。
だが未だ吾輩は死ねん。あのような危険な女をそのままにしては死ねんのだ」

大志はすぐに立ち上がる。残された時間は多くは無い。
そしてその少ない時間を一秒でも無駄にするのを惜しむがの如く素早く立ち上がる。

残りの97人を殺すという目的を、残された時間のうちに一人でも多く、
あさひを狙う者達を殺すという目的に変化させ、多くの者達がさ迷っているであろう森へと消えていった。

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