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「咄嗟の一言というのは極めて大事だ。特にこういう状況ではそれが生死を左右し兼ねない」
 マナと並んで歩きながら、聖は上機嫌で喋っていた。
「先ほど観月くんが飛ばしたハッタリ、あれはいけない。
 実際に人を殺せるような規模のレーザー砲となると、とても人ひとりで持ち運べるようなサイズじゃないからな。
 ハッタリが嘘だとバレてしまうと、相手に無駄な精神的余裕を与えてしまうぞ」
「べーっ、だ。どうせ私は嘘つくのがヘタですよー。
 ……じゃ、あの時はどういうこと言えばよかったのよ」
「そうだなぁ……」
 唇を尖らせるマナに、聖はしばし考え込むようにして、
「まぁ、なんにせよ無駄だろうな。多分、何を言われようと私は同じことをしただろうから」
「……何よそれ」
 マナはだらしなく両手を首の後ろで組んだ。
(逃げてきちゃったけど、今、お姉ちゃんどこでどうしてるんだろう……
 藤井さんにはもう会えたのかな、それとも……ううん、まだ生きてる、きっと生きてるよね、お姉ちゃん)
 フッと小さく息をつくと、隣を歩く聖に声をかける。
「ねぇ、霧島さん」
「『霧島先生』」
「……霧島センセー」
 マナはジト目でひと睨みして、続けた。
「霧島センセーは誰か探してる人、いないの?」
「妹が、いる」
 即答だった。

 聖の表情が、少しだけ硬いものに変わる。
「あの子――佳乃を死なせるわけにはいかない。佳乃は私が必ず守る。
 そのためにも、一刻も早く見つけなければならない」
 聖は様々な感情の入り混じった、複雑な笑みを浮かべた。
「私も医者でなかったら、『この中の誰かが佳乃を殺すかもしれない』とか思って、出会った人間を片っ端から殺していたんだろうな。
 例えそのことで後で佳乃が泣いたとしても、だ。
 やれやれ……職業意識というのは厄介で、なんとも有り難いものだな」
 どこか遠くの方を見つめながら悟ったように言う聖の横顔を、マナはびっくりしたように見上げた。
「……霧島さんは」
「うん?」
 マナの声に潜む真剣な響きに、今度は呼び名を訂正することもしなかった。
「仮に……もしも、そのせいでその、妹さんが、死――」
「さて、雑談タイムは一時休憩としようか」
 聖はいきなりマナの後頭部に手をかけると、グイッと前に押し倒した。
「ちょっ! ちょっと、何す……!」
 ビィーーーン!
 つい今までマナの頭があった空間を貫き、ボウガンの矢が側の木に突き刺さった。
「えっ……!? まさか」
「診療時間みたいだな。……出て来てもいいぞ」
「チッ……当たっとけよ、めんどくせー」
 オートボウガンを片手に、頭をかきながら現れたのは藤田浩之(077)だった。

「最初に一つ聞かせてもらおうか。この場を平和的に解決する気はあるのかな?」
 浩之はその問いかけには答えず、黙ってボウガンに次弾を装填している。
「面倒な相手だな……あれはもう何人か殺してると見た」
「ど、どうするのよ!?」
「倒すしかないだろう、死にたくなかったら」
「さ、さっきと言ってること違うじゃない!」
「殺すとは言っていない。抵抗できない程度にして後で手当てしておけばよかろう」
「そういう問題じゃ――」
 最後まで言わせず、聖は素早く足払いをかけてマナを倒し、自分も地に伏せた。
 ヒュン! ヒュン!
 続けざまに矢が頭の上を掠めていく。
(間違いない……あの人、私たちを殺す気だ……)
 落ち葉や枯草の濃密な匂いに包まれながら、奇妙に静かな実感が頭の中を通り抜けて行った。
 が、次の瞬間には聖の見た目よりはるかに力強い腕によって引き起こされていた。
「観月くん、ボケッとしていると死ぬので注意したまえ」
「そ、そんなこと言ったって……」
「いいか、よく聞け」
 聖の瞳がスッと細くなった。
「今からどこでもいい、あの男と反対の方向に三十秒間全力で走るんだ。
 三十秒走ったら、振り返って来た方向に向かって三十秒間走れ。行け!」
「え、ちょっと、どういう……」
「いいから走れ!」
 凄まじい剣幕に押され、ついでに聖の手に背中を押され、マナは浩之に背を向けて走り出した。
「し、死なないでよね!」
「努力しよう」
 マナからは見えなかったが、また聖もマナの方は見ていなかったが、聖はヒラヒラと手を振って応えた。
 手を下ろした時、既に聖の手には数本のメスが輝いていた。
 そして、改めて浩之と正面から睨み合う。ボウガンの照準が、聖にピタリと合わせられていた。
「あんた、医者か? にしちゃ、医者っぽくないな」
「かく言うお主は高校生かな? それにしては高校生らしくない」
 二人は同時に口の端を歪め、笑った。
 浩之が、トリガーを引いた。

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