「ぐぁっ……!」
聖の回避動作は紙一重で間に合わず、放たれた矢は聖の左腕を貫通した。
続けて飛んでくる矢は地面を転がって避ける。聖は回転の勢いを殺さず立ち上がった。
「つ……意外と速いものだな、ボウガンの矢というものは」
「つーか、ボウガン避けてんじゃねーよ」
矢の補充をしようとした浩之だったが、その瞬間、聖が浩之に向かって行った。
「なに……!?」
初めに持っていたメスは矢を避ける時に落としたのか既に消えていたが、
聖が走りつつ右腕を振ると、その手にはまたメスが一本、光っているのだった。
「なんなんだこの女……ドクタージャッカルかよっ!」
今から装填して撃ち出す時間はない。
そう判断した浩之はオートボウガンを投げ出し、腰に提げていた大ぶりのナイフ――先ほど公民館の職員から奪ったもの――を抜いた。
「はっ!」
聖がメスを横に振るった。
が、身体を動かすまでもなく、その刃は浩之に触れることはなかった。完全に腰が引けていた。
(なんだよ、この女――ビビってんのか?)
浩之はナイフを握り締めた。そう、所詮相手は女で、しかも手負いだ。
(さっさと殺して、戻ってきたチビも殺したら他の奴探さないとな……)
ナイフを逆手に持ち替え、斬りかかる。聖は慌てて身を捻ってかわすが、その動きについ今までのキレはない。
「ケガ、痛ぇんだろ。おとなしくしてろよ」
再びナイフを振るう。正面からの突きに聖が思わずのけぞると、バランスを崩して尻餅をついてしまった。
浩之が一歩ずつ近づいていく。聖は必死で後ずさるが、すぐに後ろの木にぶつかってしまった。
「じゃ……死ねよ」
高々と振りかぶった手の先で、ナイフが光る。
と、その時、聖が不意に口を開いた。
「お主、知っているか?」
「ああ? 命乞いなら聞かねーぜ」
「気づいていないのか? お前がそこに立つように仕向けたのを」
「何を――」
ドドドドドドドッ!
言いかけた浩之に、銀色の光が降り注いだ。
メス。
「赤い雨(ブラッディ・レイン)」
「て、テメェ……医者のクセして……マンガなんか読んでんじゃねー……」
「佳乃が昔貸してくれたのでな。一度やってみたかったのだよ」
「ゆ…ユメは見れたかよ……」
全身を降って来たメスに貫かれた浩之は、ゴブッと盛大に吐血し、倒れた。
聖は大きく溜め息をついて、血の流れている自らの左腕を押さえた。
「ケガの度合いから言って、先にこの男の治療をするのが妥当なんだろうな……つくづく医者の鑑だな、私は」
背中の方で、小さな足音が聞こえた。マナが戻ってきたようだ。
「さっそく手伝ってもらうことにするか……手先は器用な方なのかな」
聖は白衣のポケットに手を突っ込んだ。