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つり橋の死闘


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「ほれ、もう元気だしぃ!?」
由宇(007)が横にいる少女に声をかける。
「……ん……」
詠美(011)は力無くそう答える。
先刻からこの繰り返しだ。
(まあ、無理も無いか。詠美にはちょっと刺激が強すぎたかもなぁ……)
由宇が顔をしかめる。
もちろん由宇だって恐くないわけじゃない。
白衣の女(石原麗子)との戦いのときは無我夢中だった。
今も詠美が横にいなければへたり込んでしまうくらい足が震えそうだ。
(まあウチが弱音吐いたらこのコ、もっとおびえてしまうしなぁ。)
おもわず苦笑する。いつもよりはちょっと硬い由宇の笑い。
「どうしたの……?」
普段なら悪態のひとつでもつきそうな詠美だが、素直に由宇を覗き込む。
「ん…?ああ…まあ、いろいろな……」
(いつもこんだけ素直なら可愛いんやけどなぁ。)
「ふみゅ…」
「えーい!女々しいわ!いつまでもグズっとらんと、しゃんとしい!」
思わず一喝。……思わずおびえた子猫のように身体を縮こめる。
(あ、しもた……ついいつもみたいに怒鳴ってもうた。いかんなぁ)
だが、いつもみたいな台詞が吐ける分、由宇の緊張は和らいだようで……

「さあ、帰る準備するで。」
「えっ……帰れ…るの…?」
「いや、すぐには無理やろうけどな。」
「ふみゅ〜」
「まずは和樹達を探そか?あいつはああ見えて肝の座った男や。
ウチが認めた男や。きっと何とかしてくれるはずや。」
「ほんとに……?」
(あかん、こいつおとなしいとめっちゃかわいいな……)
女同士なのに――火照っていく顔を隠せない。
「そうや。おっ、見てみぃ!釣り橋やで!」
由宇の視線の先、大きな谷があった。
下には轟々と音を立てる激しい流れの川。
「絶景やなぁ…ていうか、この島なんでもそろっとるな…」
そんな場所だからこそ、敵はこの島を指定したのかもしれない。

「とりあえず渡ってしまおか。」
「な、なんか落ちそうなつり橋よね……」
「まあ、落ちても多分死なんやろ。運が良ければ無傷かもしれんで。」
川のながれは早いが、深さはそれほどなさそうだ。
「運が良ければって……パンダぁ〜」
「冗談やっての…」
二人は慎重に歩を進める。
歩くたびにつり橋が揺れて、結構スリリングだ。
「ふみゅ〜ん!」
「ええい、騒ぐな!うっとおしい!」


「そこまでよ……」
突如聞こえた声。川の流れにかき消されそうではあったが、幻聴じゃない。
「ひっ!」
詠美が息を飲む――。
「動かないで。動くと―――撃つわよ。」

前方から姿を現したのは深山雪見(096)であった。
すでに手にはマシンガンが握られている。
(なんや、なんでこんな時に!)
由宇が詠美よりわずかに一歩前で静止した。
感覚で銃の位置を確かめる。
――ある!
お尻に感じる異物感。すぐに取り出せる。
問題はすでに臨戦体勢の相手側である。
もはや指をクイッとひねるだけで、二人ともタンパク質の塊になってしまうだろう。
とても銃なんて抜いている暇はない。

ぎゅっ!!
詠美は由宇の上着の裾をつかんで震えている。
(あかん、絶体絶命や!)

雪見は徐々に間合いを詰めていき、つり橋の上までやってくる。
雪見は銃の扱いに関しては素人。
マシンガンではずすなんてことはそうそうないだろうが、
確実に仕留められる…かつ反撃をくらいにくい位置まで間合いを詰める。
「……」
そして一定の位置で止まった。
「もう一度言うわ。動いたら…殺す。」
なんて殺気や……!!由宇の背筋を冷や汗が伝う。
「聞きたいことがあるのよ……」
そう言いながらも二人を狙うマシンガンはそのままだ。
「ひっ!!」
恐怖に耐えきれなかったのか、詠美が後ろへとしりもちをついた。
あまり丈夫ではないであろうつり橋が大きく揺れる…!!
「くっ!」
(あかん!!)
雪見はいったんバランスを崩しかけたが、すぐにこちらにマシンガンを向けなおした。
そのとき由宇が総毛立つほどの殺気を感じた。
イヤな予感といったほうが正しかったのかもしれない。
「スマン……詠美っ!!」
由宇は思いっきり詠美を蹴り飛ばした。
「……あうっ!」
詠美が弾き飛ばされ、川へと転落していくのと、マシンガンが火を吹いたのは
ほとんど同時だった。

ドルルルルルルルッ!!

由宇の眼前を赤い光が通りすぎる――!!

「……くっ!!」
慣れない重火器、揺れる足場、再度大きくバランスを崩す雪見。
「つぅ!!」
由宇の左腕を弾がかすめる。だがそれだけで済んだ。

……だが、由宇もまた背中に装備していた拳銃を手に雪見へと狙いを定めていた。
「……!」
ギシギシギシ……
つり橋の揺れる音がやけに耳に響いた。
「形成逆転やな…」
別に逆転はしていない。だが、ほぼ互角の状況まで持ちこめたのは奇跡なものだ。
由宇は精神的に優位に立っていた。

「へへ、お姫様を守ってつり橋の上で決闘…漫画の主役になったみたいやな…」
自嘲気味に吐き捨てる。

―――自己犠牲なんてまっぴらだった。詠美も自分も和樹達も…
   またみんなでコミパで騒ぐんやって、
   そう思っとったのにな…

「……私はまだここで…死ねないのよっ!」
雪見がそう叫ぶ。二人の指がトリガーを引くその刹那…

バキバキッ!

つり橋が音を立てて崩れ落ちた。
「なっ!」
すでにもろくなっていたロープに、先程の雪見のマシンガンの弾が当たった…
その結果だった。


……ゴボゴボゴボッ!
水の中で由宇がもがく。思った以上に流れがはやい。
なんとか体勢をたてなおして岸に……

背後に黒い影がよぎった。
ざしゅっ!
背中に挿入される異物感。
ゴボッ!
大量の息が泡となって水面へとのぼっていく。
その中に血が混じっていた。

ザバァッ!

気力を振り絞って岸へとあがる。
「ごぼっ!げぼっ!」
由宇の口から水と、大量の血が溢れ出す。
「なんやこれ……?…なんやこれはっ!!」
ごふっ。叫んだ拍子にまた血が口から溢れる。
背中が熱い。やけるように熱い。
それなのに、自分の背中の感覚が感じられなかった。
「そっか…ウチ…やられたんか…」
なんとなく自分の置かれている状況を理解する。
「えいみ、…アカン、ウチじゃ漫画の主役にはなれんかったわ。
こんなところでやられたりせえへんもんな。」

(パンダのクセにでしゃばるからよ!)
詠美の幻聴が聞こえる。
(大きなお世話や、大バカ…)
そして由宇の意識は闇の底へと消えていった――。


ザパァッ!
ほどなくしてまた水面に顔が上がる。
雪見だった。
「……」
ライフルは肩に下がっていたが、サブマシンガンは捨てていた。今頃は水の底だろう。
銃と共に心中するのは当然雪見の本意ではない。
由宇の姿を確認してからゆっくりと歩み寄る。
そして、彼女の背中のサバイバルナイフを引きぬくと、
「私はまだ……やることが残ってるのよ……!」
ゆっくりと崖上へと歩きはじめた。


011 大庭詠美  行方不明
007 猪名川由宇 死亡

  【残り076人】

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