邂逅、別れ
「どうして……? どうして、そんなことを?」
だが茜は答えない。
「…だから、祐一も早く消えて下さい。
…でないと私は、祐一を撃ってしまいます」
それだけ、静かに告げる。
その言葉は嘘だった。
茜は祐一を撃つことはできない。
口から出た言葉に秘められた感情を悟り、祐一は一歩踏み出す。
「……例え変わっても、茜は茜じゃないか。
なぁ、話したいことがあるんだ、聞いてくれるか?」
茜は一歩下がる。
「……嫌です。お願いだから……」
「俺もいやだ。茜に会うために、ずっと島中走り回ってきたんだ。
あの頃言えなかった想いを伝えるために、探してきたんだ。
茜……俺は、お前のことが……」
「……嫌……言わないで……」
「……好きだ」
「嫌ぁぁぁっ!」
夜の建物の少女の悲鳴が響く。
それは、ゲーム開始以来最も悲痛な叫びだったかもしれない。
走り出す。
これ以上祐一の側にいたら、今までやってきたこと全てが無駄になりそうな気がしたから。
(…どうして私にそんなことが言えるんですか?)
(…もう私は、あの頃の私じゃないのに)
(…どうして、そんなことが言えるんですか?)
「茜!」
追ってくる気配がする。
「来ないで下さいっ!」
手持ちの手榴弾を投げ付けた。
「なっ……!」
反射的に後ろに下がり、避ける。
バァァァァン!
爆発。
そしてそれは、目覚まし時限爆弾を巻き込み。
ドガァァァァァン!
大爆発を引き起こした。
瓦礫の中から、祐一は立ち上がる。
体は痛むが、まだ動くようだ。
武器も無事である。
しかし……
「茜……」
茜の姿は、もう見えなかった。
夜の町を、ただ走る。
目には大粒の涙をたたえて。
「……どうして、あんなこと言うんですか……」
動揺していた。
相手が例え変わってしまっても、信じる。
それは茜が幼馴染みに抱いていた感情と、全く同種のものだった。
それに気付いたからこそ、茜は逃げた。そう思った。
本当の理由を茜は知らない。
自分でも気付かないうちに、あの一年間で祐一に惹かれていたことに。
それは、幼馴染みを思う自分を、正面から崩してしまうことだった。
幼馴染みを想う心と、祐一を想う心。
それ故、祐一の前から逃げ出したことに。
茜は気付いていなかった。
夜の闇はさらに濃くなってゆく。
自分は、何処に行こうとしているのか……