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Double Cast


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太田香奈子と松原葵の激突。
時間はそんなところまで遡る。

「……」
(人が――歩いてるね。)
月島瑠璃子(060)が視線を向けた先に、一人夢遊病者のようにさまよう少女がいた。
(確か……美凪ちゃんだったっけな?)

遠野美凪(062)。あれからどれだけたったのか分からない。

――傷口、けっこう痛いんだ。舐めてくれたら、痛くなくなるかも
――ん
――……痛くなくなってきたよ
――河島、さん?

ほんのわずかな間行動を共にした人。その人はまるで眠っているようだった。
(私もまた、夢を見ているんですか?まだ覚めない…夢)
景色が上下に揺れる。
夢、美凪の夢。どうしようもなく悲しい夢。
(みちる…)
あどけない少女の顔が脳裏に浮かぶ。その笑い声が彼女の胸に深く突きささる。

瑠璃子は物陰(といってもあたりは雑木林だったので、身を隠すには困らなかった)から彼女を
観察しつづけた。
今、瑠璃子の手元には凶器である挟はない。
生きていれば、恐らく新城沙織と太田香奈子が持っているはずだ。
だが暫くして、躊躇せずに瑠璃子が歩を進める。
(次の…ターゲットは…あのコだね。)
瑠璃子の口元だけが笑った。

「あの……」
少女の背後から声。
「……」
返事はない。だがややあってゆっくりと振り向く。
「今一人だよね…?よかったら、私とお話しないかな?」

「そう…大変だったんだね。」
瑠璃子が美凪の背中をそっと撫でて励ます。

瑠璃子が刀に布を通す。丹念に刀身に刷り込むように走らせる。
「刀…綺麗だよね。」
「刀フェチ…?」
美凪らしい台詞。だが、彼女を知っているものが見たら、それはただの違和感としか感じられないほど
くぐもった低い声。
「うーん、違うと思うよ。多分、この光が好きなんだよ。」
「光…」
鈍い光が強さを増す。瑠璃子の人形のような瞳に光沢が映し出される。
――鋏はしょせん付属品に過ぎない。最初はただの鋏だったんだから。
この毒の染み込んだ布こそが瑠璃子に支給された本当の武器であった。
話さなければこの布に毒がしこまれてるなんて誰が想像できようか。
警戒心が強い人には怪しまれるかもしれないが。
すでに殺戮者として動いている人には怪しまれるどころか有無を言わせず殺されてしまうかもしれない。
だから、瑠璃子にとってももまた他人とのコミュニケーションは命をさらす危険な賭け。

「たぶん…私は人を探してるんだと思います。」
刀を手に、瑠璃子は耳を傾ける。
「危険だよ――。」
刀から視線を外し、瑠璃子が驚いたように口をはさむ。
「ダメだよ…そんな、命を粗末にするような…」
「ただ…みちるに会いたい…」
瑠璃子の声はかき消された。小さい、だけど凛とした意思のこもる声。
そこだけ、美凪が美凪らしく言えた久しぶりの言葉。
「…みち…る?」
「……知ってるんですか?」
瑠璃子の反応に美凪の感情がさらにこもった。
「うん…」
瑠璃子もまたゲームの参加者。今の詳しい状況は何も分からない。
だが一つの例外。それだけに関しては瑠璃子の耳に常に入ってくる。
それだけに関してはその人の一挙一動、すべてを手に取るように。
(一緒に行動してた罪だね…ここでは、強いものに巻かれては生きてはいけないんだよ。)

――水瀬 秋子――
頭の中でその言葉を反芻させる。
(その人は、笑って人を殺せるんだよ…恐いんだ、本当に…)
瑠璃子さんの悲しそうな、そして恐怖した声。
(私も本当は行きたい。だけど、香奈子ちゃんや沙織ちゃん、友達が帰ってくるから、
私には行けない…)
その気持ちだけで充分。待っててくれる人。それが力になるから。
(今はなにもできないけど…このあなたの刀。無事に帰って来れるようにおまじない。)
瑠璃子さんが心配そうに、だけど強くそう言ってくれた。
(ちょっと恐怖……でも大丈夫。)
少し朦朧とする意識を震わせるように小さくガッツポーズ。
瑠璃子さんの思いがこもった刀と私の勇気。
そして見てて下さいね、河島さん――。
まっててね、みちる。その人を倒して、一緒に帰ろう?

美凪の靴下に赤い染みが広がっていた。
ふくらはぎのあたりの小さな刀傷。
美凪が気付かないほど薄く、浅い傷だった。

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