いんたーみっしょん
監視役側の兵を屠った後、晴香たちは再び森の中に身を隠した。
「…結局、これだけ苦労したのに。何の手がかりも無し…ね。」
自嘲ともとれる言葉を吐く。
…何が「不可視の力」よ。肝心な時にまるで役に立たない。
高槻の居場所はつかめないまま。そして私達を襲った少年も取り逃がした…
…そういえば。
「智子。あなた、あの男と知り合いなの?」
「…男って、だれや…。」
膝を抱え、うずくまったままの智子。
「あなたを拳銃で襲った奴よ。あなたを委員長って呼んでた。」
「…っつ!」
智子、そしてあかりが表情を曇らす。
「…ああ、あいつね。あいつは昔、神戸におった頃のクラスメイトなんや。」
「そう。元クラスメイトに狙われるなんて、智子って、よっぽどのワルだったんだ。」
「んなわけないやろ。」
つっこむ仕草には、いつもの覇気はなかった。
そんな智子をじっとみつめているあかり。
その視線に智子も気づき、瞬間、目が合ったが… つい、とそらしてしまった。
…ダメや。いまは神岸さんの顔なんてよう見れん。
…「あのー。皆さん無視しないでくださいー。」
あら、いたんだ。ってな風で二人が振り向く。
「ねえ、こいつ、誰?」
窮地を救われていながらひどい言い草だ。
「ああ。この子、うちらのクラスのメイドロボなんや。」
「メイドロボ…これが?」
「はいっ。はじめまして。わたくし、マルチと申します。
今後とも、よろしくお願いします(ペコリ)。」
…メイドロボっていうのは、もっと怜悧で有能そうな外見をしているものと思ってたけど…
今一つ納得のいかない晴香。
「…………」
むにーっと、ほっぺたを引っ張ってみる。
「はうー、いらいれすー。」
今度は、スカートを「ぴらっ」ってな感じでめくってみる。
「そこはダメですぅ。」
ほっぺたを赤く染めたりしながら恥じらったりしている。
「……。智子、これって役に立つの?」
…これ、なんて言うのはひどいですー..とかなんとか言っているのは無視する。
「うーん。保証はできひんなぁ。」
…あうーっ..と言う感じでうなだれる。が、これも無視。
「あんた、何か役に立ちそうな特技はないの?」
ちょっと頭に「?」を浮かべながら考えている。
数瞬して、「ああっ」てな感じてポンッと手をたたく
「じつはわたし、すごい力をもってるんです。」
…こんな奴でもロボットの端くれだ。最先端の科学兵器がつまっていてもおかしくはない。
「…見せてくれる?」
つい、期待に胸を膨らませてしまう晴香。
「はい。これはですね、犬さん召喚っていう魔術なんです。」
…召喚? 犬?
今、なにかとても非科学的な言葉を聞いた気がする。
「それでは、披露します。」
えっへん、とでもいうかのように(ぺったんこな)胸をそらし、
スカートのポケットの中から、ごそごそと何やら取り出した。
「…ただの紙と鉛筆やないか。」
ノンノンノンと指をふってみせた後、
(ってゆうか、そんな仕種どこで覚えたんや…)
おもむろに地べたに座り込み、なにやら紙に書き始めた。
「うらぁ、とりゃぁ」
…なにやら気合いを入れる必要があるらしい。
「…うまく書けましたー」
そう言うなり、すっくと立ちあがった。
晴香に手のひらを見せる。
「…何?」
「十円玉貸してもらえませんか?」
どげしっ!
「それはコックリさんやないかー!」
晴香よりも先に、智子のするどいツッコミ(&張り手)がとんだ。
「あうーひどいですー。」
頭をさすりながら、智子に非難の涙目を向ける。
「ここからがいいところなんですよぅ。」
しょうがないので、晴香が十円玉を渡す。
その十円玉をポケットに入れ、両手を合わせてこう唱えた。
「なうまくさんまん、ばさらだんかん」
ぱこーん!
「流儀が違うわ!」
意外と濃ゆい知識を持っていた晴香が張り倒す。
…だめだ、役立たずだ、こりゃ。
ってな感じで晴香と智子、目を合わせ、「はぁーっ」とため息をつく。
「ふふふっ。ふふふふふっ。」
笑い声。
見ると、あかりが涙を流しながら笑っていた。ツボにはまったのだろう。
「あははっ、おかしい。おなかが痛いよ。はははっ。」
再び見つめあい、智子がつぶやく。
「…お姫様を笑わせたんや。こりゃ、連れてくしかないな。」
「そうね。」
「はあぁー。」と二人、再びため息をついた。