幕間
小鳥のさえずる声がする。
坂神蝉丸は軽く息をついて立ち止まった。
朝がきてしまったのだ。
昨晩までに、かなりの距離をきよみや月代を探して歩いていた。
何度か近くに人や動物の気配を感じはしたが、
見知ったものの気配には出会えなかった。
できれば、まだ感覚の鋭い夜のうちに見つけたかったのだが――。
先刻の放送は、高子の名を告げていた。
――間に合わなかったのだ。
「…………」
無念の思いが浮かぶ。
聡明で優しい娘だったのだが…
月代と、きよみの顔を思い出す。
次が彼女達でないという保証はどこにもないのだ。
誰が夕霧や高子を殺したかは分からないが、自らが少しでも生き残る
ためならば、か弱い婦女子を殺害することを辞さぬ者が確実にこの島
にいる。さしたる戦闘能力を持たない月代やきよみ達の命は、まさに
風前の灯火だといえた。
高子が死んだことで、月代などは悲しみで冷静さを失うかもしれない。
そうすれば、ますます危険な者に見つかる可能性が増えてしまう。
急ぐ必要がある。
昨夜、多くの銃声や気配を感じた方向に行ってみることにした。
危険ではあるが、仙命樹による恩恵が期待できないにせよ、元々強化
兵となる以前より影花藤幻流の剣士として心眼の修行を積んできた身
である。昼間であっても、参加者の大多数にくらべれば遙かに優れた
身体能力を蝉丸は有していた。油断さえしなければ大丈夫のはずだ。
(……!?)
視界にかすかに人影のようなものが写った。地面に倒れている。
周囲に注意しながら、慎重に近づく。
――倒れていたのはまだ年端もいかぬ娘だった。
月代よりはいくらか年上だろうか。
特に外傷は見あたらないが、これは――。
(…事切れているな…)
――――。
既に躯は冷たくなり始めていた。見ると、ふくらはぎのあたりに小さな
傷口がある。傷口の周囲が変色しているところをみると…。
「毒か…」
改めて静かな怒りが、蝉丸の中で燃え上がっていく。
涙の後がかすかに残る娘の瞳を閉じ、近くの木陰に横たえさせる。
残念だが、今の状況では弔っている時間はない。
「…すまん、許せ」
戦場で失った戦友たちのことを思い出した。死そのものは今まで何度も
見てきた光景だが、このような若い娘となると、何か苦いものを感じる。
そしてこの「げーむ」に参加させられていた者の多くは、同じような
娘達なのだ。
そして蝉丸は娘が大事そうに抱えていた刀を手に取った。
慎重に鞘から引き抜く。かなりの業物だ。
「…む?」
――普通の人間には分からぬほどの、かすかな異臭。
蝉丸は顔をしかめた。
光岡との最後の戦いが脳裏をよぎったのだ。
――だが、きよみを助けるためにも、力は必要だ。殺したくない相手ならば
峰打ちですますという手もある。雑念を振り払って蝉丸は進み始めた。
その先に待っているものを、まだ彼は知らない。
【坂神蝉丸 遠野美凪の刀を回収】
【残り69人】