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喫茶店で


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「森川由綺という少女を捜しています。
 あの子は普通の子なんです。だからだれかが守ってあげないと――」
 弥生は目の前にいる女性――水瀬秋子を仲間にしようと必死に哀願していた。

「そう言われても――私はここから動く意志は残念ながら無いのよ」
 秋子にしては珍しく頼まれごとに了承(1秒)と回答しなかった。
「私は、見知らぬあなたより、ここにいる我が子のほうが大切なの。
 これがもし隣近所に住んでいて、普通に生活している時だったら、受けたのよ。
 でも、今は殺し合いの舞台に私たちはいるの。
 私はこの殺し合いで狂気に取り憑かれた人を何人も見ているの。だから私がこの場に
いないときにこの子達を守れなくなる事は了承出来ないの」

 秋子の意見は当然の理論だった。弥生も秋子の言葉に異を唱えることなど出来なかった。
 自分の大切な人を守りたいから私はこの人に手伝ってもらいたい。
 でもこの人は大切な人を守るために動けないと言っている。
 どちらも同じ思いである以上、私は説得することを諦めた。
「分かりました。ではもし森川由綺という少女が現れたら保護していただけませんか?」
「えぇ、それは分かりましたわ。でもその際大人数で合った場合は別ですよ。
私にも限界は有りますから」
「分かりました。その際は連絡を――――」
 と携帯電話の番号を書こうとして思いとどまった。
 そんな物がここで通じるはずが無い。
「ふふふ。そうですね。そういう物が繋がるわけ無いですね」

「――私が一緒に行きます。それなら秋子さん分かるでしょ」
 いままで黙っていた琴音が、それが当然であるかのごとく発言した。
「だめよ琴音ちゃんは。あなたは今能力を無理矢理押さえ込まれているんでしょ
 最近はその能力を定期的に発散する事で暴発を押さえていたのに、いまはそれが
出来ないんだから、弥生さんにいつ迷惑かけるか分からないわ」
 秋子は左手を頬に当てながらいつもの微笑を浮かべている。
 琴音は、ひろゆきと雅史しか知らないはずの事をなんで秋子さんが知っているのか
自分の耳を疑った。

「あらあら、琴音ちゃんったらそんな『なんで知っているの』って顔をしないの。
 弥生さん。あなたの大切な人はどこかの建物に向かっていて1人では無いですね。
あと、3という文字が見えました。
 能力を制御されている今はこれが精一杯です。お役に立てなくてごめんなさいね」
 秋子は弥生に深々と頭を下げた。

「いえ、それで十分です。いえ、十分すぎます。
 由綺が誰かに守られているならそれに越したことは無いですから。
私もすぐに向かわないと――」
「それと、今のあなたが主宰の高槻さんに挑もうとしないでくださいね。
 あの人は本当に危険ですから」

 弥生は秋子に言われた事を心に刻み、壊れた扉の方へ向かった
「水瀬秋子さん、本当にありがとう」
 弥生はそう言うと荷物を持って走り出した


「さてさて、これで高槻さんに私の居場所がバレてしまいましたし、これから大変になりそうね」
 秋子はそう言って席を立ち、散らかった喫茶店を片付け始めた。
 琴音もそれを見て秋子の手伝いをするべく椅子や机を元通りの位置に戻していく」
 一通りそれがすんで、カウンターの内側でコーヒーを入れる秋子さんに、琴音はさっき飲み
込んだ言葉をもう一度言うことにした。
「秋子さん、どうして私の力のこと知っていたのですか?」
 秋子は煎れたコーヒーを琴音に渡すと、もう一杯煎れ始める。
「あら、そのこと。
 それは私は私の側にいる人のプロフィールがおぼろげながら分かるからよ。
 どういう物を持っていて、どういう風に行動をするか見えるの。
 でもその能力も押さえられているから、見える範囲と見える内容はあくまで微弱な物よ。
 ほら、あなたとは長く一緒にいたから少しずつ流れ込んで来たのよ。了承?」

 琴音は秋子の言葉にコクンと頷いた。
 秋子はコーヒーをすすりながらさらに琴音へ語り始める。

「良くわからない能力に押さえ込まれているから、能力者はみんな苦労しているわね。
 でもそうで無ければ、今頃殆どの人が死に絶えているはずだから、高槻さん達も優しいわね」

「ここから生きて帰るには、どれだけ能力を封印されている人が第一結界を施している物が
解き放たれる迄に亡くなっているか。もしくは能力者がVS高槻に目覚めるかです。
 逆に能力保有者を消せる、もしくは味方に付けれるかが高槻さん側の勝利条件ですから」
 秋子はコーヒーを一口すすって、琴音に微笑みかける。

「私は当分ここから動かずに、能力が1段階解き放たれるまで待つ事にしたの。
 1段階解き放たれれば、あなたやみちるちゃんが名雪を守ってくれるから、私は名雪を生きて
帰すための行動に出られますからね」

「今結界には魔力的な物を持っている能力者が数人当たっています。
 その結界を解いた際にでる影響を知らずに彼女達は行っているみたいですね」
 秋子はサラッと言った事は、これから起きる環境変化において極めて重要な事柄だった。
 琴音はただでさえ悪い顔色を青ざめさせ、秋子に問いかけた
「その封印が解かれると、どれくらい危ない人が覚醒し始めるのですか?」
「だいたい1/3くらいかしら。
 そのなかに琴音ちゃんも入っているわ」
 秋子はそう言って、琴音の手を握りしめた。

「往人さん、間に合うかしら、あの子封印解かれたら生きて居られないでしょうに――――」
「あの子って、みちるちゃんが捜している方ですか?」
 秋子は首を横に振った。

「観鈴っていう子がいてね、封印されている力が、その子の母体みたいなの。
 そして、あの力を人の器で全ては受けきれない。
 だから、延々と輪廻し続ける魂が今言った観鈴っていう子なの。
 往人さんの人生はその子を見つけて導くこと。だから美凪さんを見つけても、ここを教える
だけで、往人君は探し続ける事になるわね。
 往人さんがたとえ間に合っても、封印が解かれればその子の命は無いでしょうから、それ
までに今結界を解こうとしている人たちを止められるかがポイント。
 でも、その結界を解くことで生き残るチャンスを延ばすことが出来る私やあなたの様な人は
この場合、往人君が止めないで居てくれる方が助かるのよ。
 それは往人さん次第。
 もし、結界が解かれればきっと殺人鬼が2,3人増えると思うのだけど、往人さんがそうなら
ないことを、私たちは祈りましょうね。
 でないと、往人さんを殺さなければならないのですから」

「高槻さんは今回能力保持者を集めすぎました。
 そして、その殆どの人はこの馬鹿げた殺し合いにピリオドをうちたがってる。
 今回はゲームに乗ってしまった人が少なすぎて、彼らも必死ね」
 琴音は、秋子の話したことは全然理解出来なかった。
 だけど、封印されている超能力が使えるようになるかもしれないという事と、それによって
回りに多大な影響が出そうだと言うことは理解できた。


「秋子さん。質問いいですか?」
 琴音は今にも震えそうな声をどうにか平静に保ちながら語りかける。
 秋子はいつもの微笑を絶やさない
「前回秋子さんが生き残った方法って、何なのですか?」
 秋子の表情が一瞬だけ固まった。
 琴音はそれを見ていぶかしんだ表情を出してしまった。
 秋子はそんな琴音を見やり、微笑を浮かべながら語りはじめた。
「あらあら、動揺したのがバレちゃいましたね。琴音ちゃんさすがね」
 それを察知出来なければ良かったと琴音は正直の思い返した。
 そして、禁断の扉を開けてしまったことを琴音はここで判断した。

「それは、あのとき私は主催者側に付いたからです。
 あのときの大会は、主催者サイド側に付いた人だけが最期まで生き残って、
主宰が最後の1人を決めるアナウンスをしようとした際、提案したの。
『ここにいる人全員生きて返さないと、後であなた方全員が死ぬことになるわよ』
ってね」
 秋子の表情がだんだん暗い物に変わっていき、それにつれ声のトーンも徐々に
低くなっていった。
 琴音はそれを見ないように顔をうつむけたが、恐怖はどんどん増すばかりだ。
「あのとき主催側に付いた人は、柏木耕一さんのお父様だったり、遠野家の御当主
だったりと、明らかに人外という方々ばかりでしたわ。
 まぁ、相手も確かに人外が数人居ましたけど」
 淡々と語る秋子から琴音は完全に視線を逸らし、震える足をどうにか押さえ込む。
(ここで震えちゃだめ、震えちゃだめ。恐怖に負けたら生き残れない――)

「大丈夫よ琴音ちゃん。私を裏切っても、名雪を裏切らない限り、あなたは
私が守るから。
 そのかわり――」
 秋子がいままで押し殺していた殺気をいきなり解放する。
 琴音は無理矢理押さえていた震えを止めるどころか、椅子から落ちて
腰を抜かしてしまった。
 失禁しなかったのは、琴音の恐怖感が麻痺寸前だったからであろう。
「名雪を手に掛けたときは、本当の恐怖を教えてあげます」
 琴音は秋子の言葉にただ頷くことしか出来なかった。
 秋子はすでに殺気を押さえて、いつもの平静さといつもの表情に戻っている。

「高槻さんも粋な計らいをしてくださる物ね。私に鞘の付いている長刀を
渡して下さるのだから――――」
 秋子の言葉を耳にしながら琴音はその場で失神してしまった。

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