そのころ


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浩之と別れてから、簡単な食事を済ませ体力を取り戻したあと、
蝉丸と月代は山中の獣道を高台に向けて進んでいた。

月代は、蝉丸が念のために、として付近の竹藪から刀で切り出した
竹竿…いや、竹槍を振り回している。
「(・∀・)蝉丸…これからどうするの?」
「まずはきよみを探す。きよみは野外での生活に慣れていない…
 おそらく、どこかの建物か、洞窟などにいるはずだ。見晴らし
 の良いところに行ってそれらしい建物を探す。その後は…
 …分からん」
きよみはああみえて芯の強い娘だ。決して殺人の狂気などに囚われては
いないだろうが…。
蝉丸は考える。
今朝の放送を信じる限りでは、既に20人もの死人が出ている。
恐らく、それからも何人かの犠牲者が出ているのだろう。

仲間を、家族を、守りたい…多くの者はそう願っているはず。
だが、死者は確実に増えていっている。

――誰かが、殺している。
――誰が?

――一つは、この「げーむ」を「理解」した者。冷静に、自分が最後に生き残る
  ために動いている者。そう多くはあるまい。
――もう一つは、恐怖に溺れ狂いかけているもの。
――そして、最も多いであろうのが――
自分達と同じ境遇の――あるいは境遇だった者だ。
自分を、家族を、仲間達を守るためならば敢えて罪を犯そう。
そう考えている者達だ。

仮に相手が見知ったる仲間であっても信用できるとは限らない。むしろ、
知り合いであれば自分の弱点に通じてもいるかもしれないのだから。
時間が経つにつれ、信頼は不安に、不安は恐怖に変わり…さらなる悲劇が
起こるだろう。知り合いでない者ならばなおさらだ。

このままではいずれ、島中の多くの者が、己の為に人を殺めていくことになる。
――仕方がないと、心で泣きながら。心を凍てつかせながら。
先程の少年がそうだったように…

そして仲間を喪った者は、絶望とと怒りのままに己を犠牲にすることも厭わぬ
復讐者と化す。大半の者がそうなってしまえば、共に手を携えて脱出の方策を
練ることも、主催者を倒そうとする試みも叶うまい。

そもそも彼らはたった一人しか生き残らせない、と言っているのだ。嘘か真かは
知らぬが、腹中に爆薬を仕込んでいるとも言っていた。

(――どうすればいい? 光岡…お前ならどうする?)

軍に入った時から戦いにて命を落とす覚悟はある。
自分自身の死ならば従容と受け入れることもできよう。
だが…。
生かしたい者達がいる。
そのうち誰か一人を選ばねばならないとしたら…。
そして敵となる者の多くは――まだうら若い娘達なのだ。

考えれば考えるほど、額に険しい皺が刻まれていく。
「(・∀・)…どうしたの?」
「いや…心配するな」
月代の髪に手を置き、掻き回す。

それに――岩切は死んだが、御堂はまだ生きているだろう。
あの男と出会ったならどうなるのか。

…心を落ち着ける。ここはもう戦場なのだ。考え事に気をとられ続けるのはまずい。
当面やることは決まっている。
一刻も早くきよみと、そしてまだまともな理性を残している者達を探さねばならない。

きよみ。
…何か、胸騒ぎがした。

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