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強者の、綻び。


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「あいたいあいあい……♪」
「だから歌うなっつってんだろうが!」
「……うぐぅ」
 御堂のお守りは二日目に突入していた。朝までだ、と念を押したにもかかわらず、
あゆはちょこちょことついて来る。結局、根負けして放っておくことにした。
――安宅みやが言っていたことが気になったわけでは、決して無い……はずだ。
「だって、つらいときや悲しいときは歌を歌うと元気になれるんだよっ」
「俺の体調は万全だ。ヘタクソな歌なんか聴いてられるか」
「うぐぅ……ひどいよっ。ボク、歌上手いもん。歌手デビューしたら、
きっとオリコン11位ぐらいに入れるよっ」
 おりこん、というのが何だかわからなかったが、
御堂はそれを尋ねるのは思いとどまった。
「知るか。……とにかく黙れ。てめぇの歌のせいで敵に居場所がバレちまうだろうが」
「うぐ……敵って?」
 きょとん、とした顔であゆは尋ねる。
「お前馬鹿か。こいつは殺し合いだ。自分以外は全部敵だろうがよ」
「自分以外は敵……でも、おじさんはボクを殺したりしてないよ?
そりゃ、怖いなぁ、って思うけど……」
「……何なら、今ここで殺してやろうか?」
「うぐぅっ!?」
 あゆはその場に飛び上がると、ぶるぶると泣きそうな目で御堂を見る。
「ムカつくガキだぜ……。いいか、忘れるな。お前なんざ、その気になったら
いつでも殺せるんだからな。俺にこれ以上手間をかけさせるな」
 こくこくとあゆは頷く。大人しくなったのを見て、御堂は歩き出す。
「……行くぞ。ち、全く。俺はさっさと坂神と殺り合うたいんだよ」
 ――その時だった。御堂が近づいて来る気配を察知したのは。

『何かが……来る』
 近づいて来る気配を敏感に察知した御堂は、近くの大木に身を隠す。
相手に気付かれないようにあゆを胸元に抱き寄せ、片手で口を塞いでおく。
あゆはもがくが無視し、息を殺してじっと身を潜める。
『ち、全く邪魔なガキだぜ。……そんなことより、この気配は只者じゃねぇ』
 近づいて来る者の気配は強化兵のそれとは違うが、辺りを押しつぶすような威圧感があった。
『殺気はしねぇが、この威圧感――敵に回したら厄介かもしれねぇな』
 そう考えて、御堂
『何ふざけたこと考えるんだ? 俺は強化兵じゃねぇか。完全体と呼ばれるに相応しい。
――その気になりゃ誰でも倒せる。坂上だろうが、誰だろうが、だ』
 その時――。
「にぃぁ〜〜」
 呑気な声で頭の上の猫がないた。
「? 何かいるの?!」
 しまった、と舌打ちをすると御堂は銃を取り出そうとして、――左手に鋭い痛みを感じた。
「うぐっ……はあっ、はあっ……おじさんがいけないんだよ。ボク、息が苦しくなって
ついつい噛み付いちゃったけど、あのままだと死んじゃうかと思ったんだからっ」
「……このガキ……!」
 どん、と御堂はあゆを突き飛ばすと、頭の上のぴろを掴んで放り投げる。
やはり、殺しておけばよかったと後悔するが、今更言っても始まらない。
 今は目の前に現れた敵を排除しなければ。
「あんた、何してるのっ!?」
 その声に御堂は振り向き、銃を構え――る途中で、思わず呆ける。
「何だ……その珍妙ないでだちは……?」
 突き飛ばされたあゆが腰の辺りをさすりながら、
御堂が対峙している敵の姿を見つめ、こう言った。
「うぐぅっ、痛いよ……。あ、それ猫の耳だねっ」
「にぃ〜〜」
 ぴろも同意するようにないた。

「うるさいっ。アタシも好きでこんな格好をしてるんじゃないのっ。
それより女の子を手にかけるなんて、あんたそれでも男なの!?」
 頭から耳を生やし、メイド服を着た格好で柏木梓は御堂に対し怒りをあらわにする。
『ち……こんな女に威圧されるとはな。俺もヤキがまわっちまったぜ』
 御堂は自分の感覚が鈍っている――実は、そうではなかったのだが――ことに、
少々面食らっていた。
「黙って無いで、なんとか言ったらどうなの?」
「……うるせぇ」
 すっと御堂は銃口を梓に向ける。
「!」
 さすがの梓もそれに息を呑み、黙りこむ。じりじりと緊張が辺りを支配する。
 ――それを破ったのは。
「だめだよっ!」
 声がして、御堂の腕に何かが絡み付いた。
「く、このガキっ!」
「人を撃ったりしたらダメなんだよっ!」
 しがみつくあゆを、御堂は必死で振り払おうとする。――一瞬、御堂の注意が梓から逸れた。
「……今だっ!」
 ここぞとばかり梓は飛び出す。捨て身のタックル。――だが、それを見ても御堂は冷静だった。
 強化兵の本能にしたがって銃を真上に放り投げる。そして。
「うぐ?」
 その持ち得る怪力であゆを引き剥がすと――梓の方にめがけて投げ付けた。
「え、ちょ、ちょっと!?」
 思わず梓は姿勢を崩して、あゆを抱きとめる。そのまま勢いにまかせ、二人して倒れこんだ。
「ふん。俺に喧嘩を売ろうなんて、甘いんだよ」
 目の前には、放り投げた銃を再び手に取って、その銃口を梓たちに向けている御堂の姿があった。

「くっ……」
 目の前に銃を避けようと、梓は思わず身をよじる。
が、上にあゆがのしかかっているために思うように動けない。
 幾ら防弾チョッキを身に着けているとはいえ、頭を吹き飛ばされたらお仕舞いだし、
例えチョッキを狙われても、この至近距離じゃ貫通してしまうかもしれない。
 絶対絶命、だった。
「……この、卑怯者」
 せめて口だけでも、と梓は恐怖を押し殺して精一杯の悪態を吐く。
「いい度胸じゃねぇか。卑怯者らしく、存分に楽しませてもらってから殺してやろうか?」
 それでも御堂は冷静だった。静かに凄みを効かせて言った。
その言葉の意味を察して、梓の顔が青ざめた。
「ひっ……」
「ふん。張れもしねぇ虚勢なんか、最初から張るんじゃねぇ」
 あくまで御堂は冷静に言い放つ。そしてこのニ体の目標をどうしようかと思考する。
勿論、強化兵としての本能は、こいつらを殺せと命じている。――だが。
「……うぐぅ。殺すなんてダメだよっ、おじさん」
 梓の上に乗っかったまま、あゆが御堂をじっと見つめて、そう言った。
ち、と御堂は舌打ちする。
「……馬鹿かお前。まだそんなこと言ってるのか」
「うぐぅ。ボク、馬鹿じゃないもん」
「言ってるだろうが。殺し合いなのに、殺さないでどうする?」
「そんなことしないでも、みんなで一緒になればきっと帰れるよっ」
 御堂にとっては反吐の出る、甘い考えだった。御堂は何も言わずに、
ただ、銃口を向けたまま冷たい眼で二人を見ていた。
 しん、と。死の気配が辺りを支配する。
梓とあゆにとっては気が狂いそうになるぐらいの恐怖の時間。
――だがしかし。それを打ち破ったのは、他ならぬ御堂だった。

「もういい。――おい、お前。殺さねぇでやるからこのガキを連れてどこかへ行け」
『え?』
 意外な御堂の言葉に、梓とあゆの声がハモった。
「そいつがいると何もできねぇ。……そのガキは邪魔だ」
「うぐぅ。邪魔ってひどいよっ」
「黙れ」
「ひぐぅっ!?」
 あゆは自分に向けられた銃口に思わず悲鳴を上げる。
「いいか。今回だけは助けてやる。だが、次は無ぇ」
「……ど、どういうことよ?」
 うぐうぐと震えるあゆを両手で抱きしめて庇いながら、梓は御堂に尋ねる。
「言葉通りだ。次に遭った時は、その頭をふっ飛ばしてやるって言ってるんだよ」
「だ、だったら何故、今襲わないのよ……?」
「……」
 梓の問いに、御堂はしばし沈黙する。
――そして、ため息でもつくかのように言った。
「……知るか。ほんの気紛れだ」
「うぐぅ、おじさん……」
 あゆが何か言いたそうだったが、御堂は銃を構えたまま走り出した。
『ち。なんだったんだ、あのガキは。調子が狂うったりゃありゃしねぇ』

 御堂は走る。本来の目的を果たすため。坂神蝉丸を打ち破るため。
――だが、あゆと会う以前に持っていた強化兵としての本能は。
冷静に只、敵を討つだけの本能は、少しだけ。ほんの少しだけ、綻びが見えていた。

『俺は、坂神を倒すためだけにここにいるんだ。他のやつらがどうなったって構わねぇ。
――だから、見逃してやったんだ』

 御堂はそう言い聞かせると、更に走る速さを上げる。
……その背中にはいつの間にか、離れえぬようにぎゅっとしがみついたぴろの姿があった。

【御堂 蝉丸を探して単独行動(ぴろ付き)】
【柏木梓 月宮あゆ 合流】
【時間帯は放送前の出来事】

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