嘘をつくこと、信じること


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別の道を辿り、誰にも会わないように願いながら約束の地へと急ぐ。
(笑っちまうよな…早く味方を見つけて…協力したいと思ってるのにな)
心の矛盾。
だが、度重なる出来事で確実に他人との遭遇を恐れるようになっていた。
大志の裏切り、由宇の死、次々と仲間達の死を宣告する放送――。
そして南の豹変。
横で力なく笑う詠美を腕で抱きながら和樹は歩く。
「ここら辺だな……着いたぞ、詠美」
玲子の消えた場所――島の最北の森の中に存在する小さな広場。
便宜上、和樹達はここを『北の広場』と呼んでいた。
そこに、既に一人の影……
「誰だ!?………楓ちゃんか……」
和樹が構えた機関銃を下ろすと同時に楓がこちらへ向かってくる。
「…どうでしたか?」
「いや、収穫なしだ。スタート地点を含めて怪しいとおぼしき場所を見て回ったけど」
「そうですか」
楓の声に落胆は見られない。
「結構冷静だな。こっちは何もなくて結構ゲンナリなんだぜ?」
「いえ…そこを探したことに意味はあります。次は違う処を探せばいいんです。
 そこになにもない…と分かっただけでも収穫はあったと言えませんか?」
「本当に冷静なんだな…」
「ただ前向きなだけです。そう考えた方が後々の為ですし…
 それに元気が出るって思います」
「……」
感心した風に和樹が短く口笛を鳴らす。
同時に楓から何か物を投げつけられ――。
「おっと……」
放物線を描いてゆっくり飛んでくるそれを和樹は片手でキャッチする。
「これは……リンゴ?」
「食料です。向こうの山に少しだけ成ってました。おいしいと思いますよ」
詠美にリンゴを手渡す。遅れて楓からさらにリンゴが飛ぶ。
再びそれをキャッチして今度はそれをそのまま口に運ぶ。
乾いた口内に酸味が広がって――。
「ちょっと酸っぱいけど…おいしいな」
詠美も、和樹が食べたのを確認してからそれにかじり付いた。
「うん…少しすっぱい…」
「良かったです」
楓が遠慮がちに微笑んだ。

「一応持っといてください」
自分の分を2つ残し、計4つのリンゴを手渡され、和樹はそれを大事に鞄に詰め込む。
「ああ…今、楓ちゃんは食べないのか?」
「私はその場で食べたから大丈夫です」
「そっか……」
少し会話が途切れ、沈黙があたりを包む。
「そう言えば…楓ちゃんはどうだったんだい?なにか手がかりは…」
「……何もありませんでした。どこかに地下へと続く道があると踏んでるんですが」
「……なんでだ?」

楓は、玲子と共に脱出の為の道を探そうと奔走していたこと、
そして、玲子が地下通路があるのではないかと提案したこと、
住宅地のマンホールはすべてコンクリで埋められていたこと等の一部始終を話した。

「…海岸にある祠の中に隠された海底通路があったりしないかな?と思いましたが、
 そんな都合のいいことはありませんでした」
というより祠がない―――少なくとも楓は見つけられなかった。
「マンホールはコンクリで固められてたのか…ダイナマイトでもあれば壊れそうだな」
「そうかもしれません。ですが、すべて想像の域をでない話ですから」
「まあ、そうだけど…でも秘密の通路があるっていう線は捨てがたいな」
「はい……」
そこで、楓の顔が曇る。何か言いづらそうに二人の表情をうかがう。
「……どうした?」
和樹の言葉に、今まで黙って耳を傾けていた詠美も楓を見やる。
「……言わなければいけないことがあります……」
「言わなければ……ならないこと?」
和樹の言葉に少し躊躇して、それでも控えめに頷く。
「南さんのことです……」
「「南さん……の?」」
場に緊張が訪れる――
「私が……殺しました。私が……この手で殺したんです…」
そのとき生暖かい風が吹いた――

「私が……殺しました。私が……この手で殺したんです…」
ゆっくりと、言葉の意味を噛みしめるように楓。
「う…そ……嘘……だよね……」
詠美の言葉。三人の耳にやけに遠く響く。
「嘘でしょ…嘘だって言ってよ!!」
「南さんの最期の言葉……南さんは最後に…元にもどってくれました」
辛そうに、何かを思うように楓が言葉をしぼりだす。
「だったら……なんで……なんでころしたのよ!!
 どうして…どうして……!?」
詠美が楓の胸倉を掴みあげ、問い詰める。
「言い訳は……しません」
楓が、それだけをようやく口に出す。
「どうして……人を…殺しておいて…どうしてそんなことが言えるのよっ!!!」
詠美が、その白く細い首に手を回し……
「―――っ!!」
締めあげる。
詠美が小さなその体を宙に持ち上げるように全力で力を込めて――
抵抗らしい抵抗もせず、楓の腕が力なく下がって――
「……ば、や……やめるんだ詠美!!」
放心状態だった頭を激しく振って、詠美を後ろから羽交い締めにする。
「殺してやる…殺してやるのぉっ!!」
錯乱状態の詠美を力任せに楓から引き剥がした。

ようやく開放された楓は苦しそうに喉を押さえながら地面にへたり込む。
「うっうっ……みなみさん……みなみさんっ……!」
詠美がその場で激しく泣き崩れ落ちた。
「えいみ……」
目の前の現実――それはあまりにも辛くて……
和樹の瞳から、涙が一滴、地面へと流れた――。

泣き疲れたのか、詠美はそのまま眠ってしまった。
ただ、無言で時を過ごす和樹と楓。
「なあ…どうしても話してくれないのか?その理由ってやつ…」
やがて、和樹がそう切り出した。南を殺した、その理由を。
「……ごめんなさい……」
楓もようやく落ち着いたのか、いつもの調子でそう答えた。
「みなみさん……」
詠美の錯乱状態が激しすぎたのが原因か、和樹にそのことのショックは少なかった。
むしろ、どうしてそんな悲劇が起こったのか…それが気になって。
「……すまなかったな…詠美も、普段はこんなことする奴じゃないんだ」
「分かってます。それに私は、殺されたって文句は言えません。
 詠美さんの…和樹さんの大事な女性を…奪ったんですから…」
「ほんとうは…理由…あるんだろ?なんとなくだけど、そんな気がする」
「……ないん…です…」
だけど……楓の表情はそうは見えなくて。
「全部一人で背負い込もうとするなよ…な?」
楓の頭に手を乗せ、諭すように和樹。
「だって…だって…」
「楓ちゃん…」
「だって……だってっ……!」
彼女が今まで必死に堪えていた一線。
彼女がずっと、鉄の仮面で隠してきた激情。
それが、崩れた――。
「うああああああ―――かずきさん――わたしっ――わたしっ!!」
和樹の胸の中で、その感情が溢れて――
「……」
泣き疲れて眠るまで、和樹は彼女の頭を撫で続けていた。

「……漫画書きとして徹夜に慣れておいて正解だったのかな…」
涙の跡を残したまま眠る二人を見守りながらぼやく。
「和樹選手、修羅場モード突入!!……なーんてな」
それに答える者はいない。
「ふう…こんな子供にまで…無理させちゃたよな…」
楓の寝顔を見つめ、一人苦笑する。
(まだ中学生位……だよな?…本当はまだ誰かに甘えたい年頃なのにな)
和樹もまた、心の何処かで楓を頼っていた自分を恥じた。
何も考えず、ただ闇雲に詠美を連れまわして。
そして、楓が陰で傷ついていたことにも気がつかなかった。
(知らず知らずに…俺も、この二人を追い詰めてたんだな…)
「頑張って…島から生きて帰ろうな…」
誰にでもなくそう自然と出る言葉。

楓は結局何も話してはくれなかった、それでも――
(たとえ詠美が…他の誰もが信じなくても…
 俺は楓ちゃんを信じよう――)
心にそう誓った。

もうすぐ太陽がまた沈み、夜がやってくる――。

  【和樹・詠美・楓 合流】
  【三人、それぞれリンゴ2個ずつ入手】

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