朋友


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「食った食った。やはりレトルトは偉大だな」
「あんた、ほんとによく食うわねぇ…」
「早メシ、早グソ、早ブロは日本人の美徳だからな。俺も生粋の日本人である以上この束縛からは逃れられんのさ」
「なによそれ。初めて聞いたわよ、そんなの」
 相沢祐一(男子・001番)は宮内レミィ(女子・094番)の作ってくれたレトルトのチャーハン4人前を一気に平らげると、至福の表情を浮かべてすっかり満腹となった自分の腹をさすった。一方で椎名繭(女子・046番)はその祐一の底なしの胃袋を目の当たりにしてか、少々食傷気味になったらしく、ちびちびとこれまたレトルトのクラムチャウダーをつついてる。

「まだまだたくさんあるからネ! おかわりたっくさんしていいヨー!」

 キッチンの方からレミィが二人に声をかけた。幸運にも電気系統が生き残っていたおかげで、冷凍庫に納められていたレトルト食品も無事であったし、解凍するレンジも立派に機能を果たしていたのである。
「いや、さすがにこれ以上は食えそうにない。ほんとにごっそうさんでした!」
「ドーイタシマシテー。それじゃお茶いれますネー」
「……………。」
 とたとたと愛らしくキッチンを駆け回るレミィを見て、北川潤(男子・029番)は目を細めた。その北川とテーブルを挟んだ向かいに座る繭は横の祐一を肘で軽く突っつくと小声で彼に尋ねた。
「ね、祐一。あの人達と知り合いなんでしょ? ちょっと紹介してくれない?」
「おお、そうだった。腹減ってて、んなことすっかり忘れてたな」
 繭に促されると、祐一は歯をすすってた楊枝を折って、ガラスの灰皿に捨てた。

「ヤツは、北川潤。俺と共に幾多の死線を共に潜り抜けた…」
「しってるわ。あんたの戦友の北川さんでしょ」
「ま、そうだ」
 そういうことを聞いてるんじゃないの、といった顔の繭。
「まあまあ、そういう顔をなさりなさんな。俺が転校してきてから最初に仲良くなってそれ以来のつきあいなんだ。言うまでもないが信用できるヤツだ」
 北川も笑顔になって繭に言った。
「そうなんですよ可愛らしいお嬢さん。祐たん・潤ちゃんコンビといえば学園で知らぬ者はいないほどの傍若無人、いや天下無双のコンビだったんですから、いや、ほんとに」
「へぇ…天下無双ねぇ」
 あまり興味なさそう返事をすると、値踏みするかのような目で繭は北川を見た。繭からすれば、どうも”甘っちょろいハンサム”以上でもそれ以下でもなさそうに、北川は映るのであったが…。
 一方で自分の言った「コンビ」という言葉で、住井の存在を思い出し、北川は少し遠い表情になった。このゲームが始まってかなり時間がたつというのに、いまだ彼の消息はまったくつかむことができない。
「そして、俺達にメシを作ってくれた彼女の方は…えー…あー…」
「ああ、彼女の方は相沢も知らなかったよな」
 北川はすぐに表情を戻すと、キッチンの方に顔を向け、ティーカップを並べているレミィをあごで指した。

「彼女はガルベス。ガルベス宮内だ。オレゴン生まれのトキオ育ちで、普段はワンダーパヒュームをまき散らすナイスガイだが、頭に血が上るとすぐに外角高めの直球を投げるのが玉に瑕だ。ま、今は俺と一緒に行動してるがいずれドミニカに帰って家業の昆布漁を継ぐらしい」
「ほう、よくわかったようなわからないような」
「ガルベス…ね」
 あまり納得が行かないようであったが、とりあえず祐一と繭は頷いた。一方のそのガルベスといえば、気持ちよさそうに鼻歌を歌いながらティーバックの紅茶を丁寧にいれており、彼らの話は聞こえてはいないようである。

「で、相沢。そちらの可愛いお嬢さんだが…」
「うむ、こいつは椎名繭。わけあって予の肉奴隷を…」
 言葉を言い終える前に、ものすごい音がしてかと思うと祐一がテーブルの下に沈んでいた。見れば繭が手に大皿をもって肩を震わせている。
「改めて訂正を求むわ」
「は、はい…。このお方は椎名繭様。逆三顧の礼でこの度私めを奴隷として雇って下さった偉いお方であります、はい」
「よろしい」
 繭はテーブルの上に皿を置くと、何事もなかったのようなすました顔に戻った。
「ふむ、その年で職に手をつけたか。将来設計も万端だな。明るい老後と輝かしい未来か、みなおしたぞ相沢」
「いってくれるな北川。俺にも色々事情があったんだ」
 いつも通りの軽口を叩く祐一の表情が、わずかに翳りを帯びたのを北川は見逃さなかった。

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