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冷たい風


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「あ……ア……あ……ア……」

観鈴は喚いた。
ただただ、喚いた。

枯れる。
枯れようとしている。
まだ、枯れるほど涙を流してないのに。

もう、声が途切れそうになる。

耐えがたい苦痛が、凄惨な死が、本当の無常が、
ただ静寂の中に響いている――。

「おか……あ……さん」

母の亡骸に近寄ろうとする。
でも、立って歩けない。
だから四つん這いになって這いずる。
だって、その無残な死はずっと目に映って――。


かちゃり。


滝のような涙を流し、赤くはれた眼が、
膝に当たった”それ”を見つめる。

――シグの短銃。

銃。
武器。
人を傷つけるためにあるもの。
――殺すためにあるもの。

……お母さんみたいに?

「い、いやぁぁああぁああぁああああぁああああぁぁぁぁぁぁ!!」

走った。
逃げ出した。
また、逃げ出した。
既に原型も無くなった、かつて母だったものと、
もう形見となってしまったはずの、その短銃を置き去りにして。


そして、そこにもう一つの影。
爆発音を聞きつけてやってきた、もう一人の人物。
ずいぶんとボロボロになった風体をさらし、緒方理奈は立っていた。

「無くしたんだ……。どうせ皆無くなっちゃうんだから、もう変わりないよね?」

果たしてその言葉は観鈴に言ったのか?
それとも自分へ言ったのか?

理奈は観鈴がいたところへ移動し、そこに落ちていた短銃を拾い上げた。

肌に肉薄する死。
だがそれはずいぶんとリアリティが無かったように理奈には思えた。

「どうでもいいわよ、もう」

そうして、理奈もそこを立ち去った。


――遺ったのは、
母としての自分を貫いた一人の凛々しい女性の、
その亡骸だけだった。

誰もいない空間を風が吹き抜ける。
その風は、どこまでも冷たかった――。

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