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笑うということ


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「あっちのほうだな」
大きなシーツを肩の安全ピンでとめて羽織った、さながら砂漠の旅人のような青年の言葉を
聞いて少女は視線を合わせる。
…シ−ツの中がどんな姿かは、九割の確信をもちながらも想像にお任せする。

少女は再び遠くを見て、青年に尋ねる。
「耕一さんは、どう思う?」
「うーん…留美ちゃんの言うとおりじゃないかな。
 彼女の行く先々で荒事が起きるという意見に、疑問を挟む余地はないと思う」
「じゃあ、こっちはハズレね」
耕一は頷き、朝露を蹴散らして前方を歩き始める。
墓場の朝露は、一段と寒々しかった。

二人はあまり話す事もなく、森に入る。
僅かな風を捉えて、留美-----おそらく、七瀬といった方が通りがいいだろう----の短い髪が
そよそよと流れる。
たぶん他の誰も気が付かない寒気を首筋に感じ、七瀬は小さく震える。
軽さにとまどいを感じながら、頭を左右に振ってみる。
誰もが注目した、あの長い髪はお別れの餞別に置いてきてしまった。
もちろん後悔はしていない。
(ただ、寒いだけ)
そう思って、一人、笑う。

そのとき、前を行く青年が再び立ち止まったことに気が付いて尋ねる。
「どうしたの?」
「いや…ハズレというのは、早とちりみたいだ」
森を抜けたはるか遠く。
そこに見える人影。
あのクセ毛を、見間違う筈はない。

「大当たり、だったみたいだぞ」
頷いて、ふたりで笑った。

笑えるというのは、幸せなことだ。
笑い合えるのは、これ以上なく幸せなことだ。



《やれやれ、だぜ》
《まさかあそこで自爆とはな》
《追い詰めすぎたのは失敗だったかも知れんな》
この殺戮の王国で交わされる会話としては、特に異常はない三人の会話だが。

まず会話の主たちに問題がある。
同じ顔が、三つ。
そして無線越しの会話だった。
更に、そのどれもが高槻を名乗っていたため、今では武器の社名が通り名だ。
《しかし、あれは判断に迷ったな》
《腐っても鯛だ、下手に追えば斬られるだろう》
《確かに、あの時は焦ったぞ》

巳間晴香との戦闘。
晴香は高槻が放送を使って、他の参加者に始末するよう煽った相手の一人。
その個人戦闘力は侮れない。
深追いしなかったのは、そういう事だ。

どちらにせよ、彼らは所持したレーダーで相手を先に発見できる。
こまめに索敵すれば、まず間違いなく不意打ちできる立場にあるのだ。

《ちょっと待て…この先に、二人居るぞ》
さっそくレーダーを見ていた高槻-----ステアーと呼ばれる-----が報告する。
《何者だ?》
《021と068の二人…いや、逆からもう一人だ、離れて022…鹿沼葉子だ》
《ステアー、まとめて囲めるか?》
《ベレッタ、もう少し大きく迂回してみろ。それで何とかなると思う》
《じゃあそれで。常に報告を忘れるなよ》


三人は唇の端を上げて、更に大きく散開する。
全ての笑いが幸せに繋がるわけではないと、証明するように彼らは笑っていた。

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