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弔い


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がちっ。
冷たい鉄の音。
結局、なつみの頭を銃弾が貫く事は無かった。
僅かに遅れて、風の如く駆け付けた晴香の蹴りが飛ぶ。
正確に腕を狙ったそれは、なつみの銃を教会の壁に吹き飛ばす。
衝撃に持っていかれた腕が、なつみの身体を床に転ばせた。
「―――」
なつみの顔は、呆然としたものだった。
何が起こったか分からない、という顔ではない。
何故、どうして、といった顔か。
死ねる筈だった。
復讐を果たし、今、まさに、「自分の居場所」をまた取り戻す筈だった。
しかし。
「弾切れ、ね――まぁ、随分良いタイミングじゃない?」
皮肉げな晴香の声。無反応。
「自殺なんて止めろって、お告げなんじゃないの?誰だか知らないけど、まぁ、良い店長さんよね」
「わ、私は――」
「うるさいわね」
辛うじて開いた口を、晴香が閉ざす。
その目に浮かぶのは怒り。侮蔑。
「あんたも、あいつも、ぐだぐだぐだぐだ殺せだの何だの勝手な事ばっか言って……。
 いい加減、反吐が出るわ」

なつみの顎を掴む。
長椅子の横から引きずり出すと、晴香はそれを無理矢理立たせた。
……が、すぐ崩れ落ちる。ちっ、という舌打ちの音。
「復讐とか何だか知らないけど、折角残った命を大切にしようって気があるの?
 死にたくない人達だって一杯死んでるのに?
 ふざけんじゃないわよっ!」
教会中に響き渡る、怒号。
晴香の前にへたり込んだなつみが、ようやく、びくりと身を震わせた。
「誰かのお陰で生き残ったなら――生き残ってほしかった人がいたなら。
 その人の分まで、生きてやる。それが礼儀でしょ。
 それを、殺して、奪って――挙げ句には放棄。店長さんが泣いてるわ」
「――だったら、どうしろって言うの?」
立ち上がる。
睨み付ける。
火花が散った――ように見えた。
「『居場所』も無い。生きる意味も無くなったのに。それなのに、生きろって言うの?」
「無いなら、探せばいいじゃない」
「……ありっこ無いわよ!」
「探そうともしないで、無いだなんてよく分かるわね。あんた、不可視の力でも使えるの?
 それが、放棄してるって言ってんのよ。分かってないのね」

「――っ!」
激昂。
右手を、血が滲む程に握ると晴香の胸ぐらを掴み上げた――
もはや、相手の手に握られた刀の存在すら、忘れていた。

だが、結局。
その拳が放たれる事も無く。
なつみは、再び、その場にへたり込んだ。

右手の内から、うっすらと、血の線が引かれた。

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