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血染めの少年


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見張り……警備は五分の刻みで交代された。
とは言ったものの、それは通路に配置された二人組みのシフトに過ぎなかったが。
そして、静かに終焉を迎えた二人の下に、別の担当だった者たちがたどり着く。

うっすらと香る血の匂い。
ありえないはずのそれを感じた二人は、
本能的に自分が戦いを求めているのだろうと自己完結させる。

しかしそれが現実のものであることを彼らはすぐに知ることになる。

彼らは、二人の死に様を目撃することができた。
なぜなら、惨状はそのままに放置されていたから――。

「これは――」
息を呑む。
だが慌てふためくような愚行はしない。
久しぶりの血の匂いが、ただそこに在るだけ。
二人の傭兵は、全く同じ思想の下にあった。

一つは、床に膝をつくような形で絶命している死体。
目を、いや瞳孔を開いたまま、口は半開きでよだれを垂れ流し、
そして失禁している様子が見て取れる。
居たたまれなくなった傭兵の片割れはそのまぶたを閉じると、
やや乱暴に蹴りつけてその死体を横たえた。

もう一人のほうはさらに凄惨だった。
その死体は直立不動だった。
もう絶命している……、首を落とされているというのに、
そこに立っている。
かつて頭のあった部分からは、ぴゅっぴゅっと血が断続的に吹き出すだけでなく、
その他に体を伝って地面に流れている。
言うまでも無くその体は、自らの血に紅く染まっていた。
そしてそのすぐ側に転がっている球状の物体。
――首だ。
自分が死んだことにも気付いていないかのようにカッと目を見開いたまま、
自分のものであった肉体を凝視している――ように見える。
凄惨、凄絶にして残酷。
戦場にいるのではない、
これではまるで猟奇殺人の現場に居合わせたかのようだ――。
さすがに”それ”に触れるのは躊躇われた。
よって二人はそれを黙殺せざるを得なかった……。

だがこのときにおける最も重要な事柄も、目の前の二人の死ではなかった。
仲間ではない、強いて言うならば単なる同業者。
そんなものよりも重要なもの――即ち、敵。
それも飛びきり上等な敵の存在を、傭兵の嗅覚は確実に捉えていた。

「……どうする?」
「……より勝算の高い方をとる、それが戦術と言うものだろう?」

二人は頷くと、そのまま背中を合わせてじりじりと後退する。
……すでに二人ともサブマシンガンを構えていた。
単体で二人を殺害したと言うならそれは恐るべき戦力であり、そして速さである。
仮にも傭兵を――戦闘のプロフェッショナルを、声をあげる暇すらなく殺しているのだ。
むしろ、相手も同じような人種であると考えた方がいい――。

周囲の空気には敵対者の匂いを感じられない。
鼻をつく鮮血の香りがそれをかき消したとでも言うのか。
ともかく、今のところは襲われそうな気はしない。

一歩、……二歩。

油断なく構える二人の傭兵は、着実に歩みを後ろへ進める。
ドッグにまで後退できれば、ほぼ敵の勝ちの見込みは無い。
ここが辛抱時だった。

――ずいぶんと長い一時。
一瞬が、永遠に感じられるような――。

分岐口の手前まで二人が移動してきた時、とうとう動きがあった。
カランッカランカンッ!
「!!」
ダダン! ダダン! ダダダン!!
即時反応し、マシンガンを連打する。

「……どうだ?」
「……確認できん……な」

マシンガンはまだ下ろさずに、二人は音の発生源について話した。
白い煙が立って少し煙たいが、そんなことに文句をいう余裕すらなかった。
死と隣り合わせになっている今、たとえどれほど経験を積んでいようと、
――いやそれだからこそ彼らは常に臆病だった。
彼らにとって生き延びる為の要素は、常にそこから出づるものだった。
そもそも暗闇に等しいそこは視界がひどく悪い。
硝煙が晴れても、あまり彼らに恩恵は無かった。
「……ちくしょう! 何もいないのかよ!?」
悔しそうにその片割れは言った。
「油断するな、どこに潜んでいるか分からんぞ!?」
そういった矢先――。
ガッ!!
岩壁を蹴る音が聞こえた。
反響が小さいせいでどこからの音であったかをはっきり二人は聞き取ることが出来た。
――上だ。

「くっ!?」
すかさず向き直ってマシンガンを向ける、だがその行動はほんの少しだけ遅かった。
バシィィィッッッ!
「ガッ……」
延髄を強打され、そのまま岩盤で頭部を強打した傭兵の一人はそのまま崩れ落ちた。
「おのれぇっ!」
接近されてマシンガンが思うように放てなくなったもう一人は、
そのままそれを剣として使って殴りつけた。
ゴスッ!
鈍い音がする。
その一撃は後ろから肩に入っていた。
おそらく骨にまで響いていたのではないか?
だが、その動きは止まらない。
そのまま、右手にしていた分厚い書を、遠心力に任せて振り回す。
ガンッ!
見た目どおり、いやそれ以上の重さを持ったそれが、もう一人の傭兵の顔にめり込んだ。
うめくことすら出来ずに、その男もまた崩れ落ちた。

「……はぁ、はぁ、はぁ」
荒い息。
異様に鼓動の早い心臓。
もはや感覚も無い肩の傷。

ドクン。

そして、もう一度大きく刻まれる鼓動。

「……よーし、そこまでだ」
明かりが差し込んでくる方向から、そんな声が響いた。
「これほど派手にやって気付かれんとでも思ったか?
 4人を殺ったその技量は賞賛に値するが、それもここでお終いだ」
傭兵の隊長はそう高らかに言った。
別地点、そして艦の担当になっていた全員、総勢六名が集まって、
一列に、マシンガンを構えている。

闇に光る金色の目、それはひどく冷たくこちらを見つめている。

「撃て」

マシンガンの第1射と、敵が何かを放り投げたのは、ほぼ同時のことだった。

バッ!

視界をふさぐ”何か”。
一瞬だけ動きが硬直する。
「紙か、小賢しい目くらましだ! それごと撃ち殺してやれ」

ダダダダダダダダ!

だが銃弾はそれを通しきれない。
あらぬ方向へと方向へとずらしそして――それを返してきた。

キィンキィイン!!

来るはずの無い銃弾が、丁度両サイドに並んでいた傭兵に的中する。
一人は脚を、もう一人は頭部に――即死だった――。

「反射兵器だと!?
 くっ、銃撃をやめて一次後退しろ! このままだと同士討ちになる」

満足に体が動く連中はその命令に従って後退する。
だがそれを待ち望んでいたかのように突進してくる敵。
その動きは隊長格の男――指示を出していた――へと向かっていた。

「何ィッ!」
飛び込んできたそれともつれながら隊長は転がった。
周りの連中も誤射を恐れて発砲することが出来ない。
何度も言うが、これほどの接近戦ではマシンガンは役立たずに過ぎなかった。

――この威圧感、只者ではない。こんな人間が参加者に混じっていようとは……。
ニヤニヤしながら話す、在りし日の高槻の顔が過ぎる。
……そう、黒い悪魔だ……。
――こいつなのか!?

がすっ。

「ぐぁ……」
こめかみを強打され、男の意識は闇に落ちた。
その男の首根っこを掴んだまま、残った傭兵の方に気を向ける。
――あと3人、だが、ずいぶんと離れてしまった。
連中が戦闘の勝者に気付く――マシンガンを向ける。
撃たれれば――当然だが――死ぬ。

ぶん、と男を連中の方へ放り投げる。
それは”盾”となって銃弾の嵐を遮った。
その一瞬にマシンガンを拾う。
そして腰溜めに構えて放つ――。

ダダダダダダダダダダダダダ……!

だが、銃撃の効果も未確認のうちに連中は艦の内部に入り込んだ。

「しゅ、修理はまだかっ!?」
「いま少し時間がっ……」
「早くしろっ、化け物が迫っているんだぞ」
「無茶です! まだ自律修復モードにも入ってないんですよ!?」
「じゃあ早くそれにしろ!!」
負傷したものもいるのか、艦内に血の匂いが漂う。
だが、それを超える恐慌でそこは埋め尽くされていく。

「んぐっ……、 ぐっっっ……」
「どうした、早くしろぉ!!」


――その時、何かがパッと輝いた。


ぼうっとドッグを見つめる。
そこにはさっきまであったはずの潜水艦の姿がなくなっていた。
一瞬のうちに、消えてしまった――。

「……うっ……がっ……あっ……あああああああ!」

突然胸をかきむしりながらもがく。
その右腕や額からは、破裂した欠血管が血を流している。

どくん!

もう一度大きく鼓動する。
そして、意識が途絶える――。


気が付いてみれば、もう朝日も昇る頃で。
目の前にあった、累々たる死体の数々も消えていて。
でも紅く血にまみれた全身が、それを偽りで無いと言って。

すぐ近くには、いつのまに現われたのか、安らかそうに寝息を立てる郁美がいて。

――僕は笑うしかなかった。

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