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狂乱の鼓動


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僕の体を蝕むもの。
それが疲弊と反動だとすれば。

僕の精神を蝕むものがある。
それが、殺人衝動とも言うべき、狂気。

叫びが、聞こえる。
それはこの島で無念にも散っていったものたちの、狂おしい叫び。
生への渇望。

「早く殺して下さいよ」

……え?

「私、すっごく痛かったんですよ」

……郁美ちゃん?

「折角、あなたと出会えたのに」

何で、君が……。

「だから絶対許せません。私を殺した人は」

君は……、本当にそんなことを思っているのか?

「早く死んでしまえばいいんです、あんな人は」

……嘘だろう、君がそんなこと言うなんて信じられないよ。

「いいえ、本心ですよ」

そんな……。

「じゃあ、もしあなたが私だったら、どう思います?」

!?

「……ほら、やっぱり思ってた通りの人だ」

ち、違う! 僕は……。

「だから、頑張って殺してくれているんですよね」

そんなことは無い、僕は――。

「良いんですよ、そんな謙遜しなくて」

違う――。

「一生懸命殺していましたよね。私、全部見てました」

違う――――。

「あなたのやっていることは正しいんですよ」

違う――――――。

「だからこの調子で、私を殺した人も殺してくださいね」

違う――――――――――。

「私、ずっと楽しみに待ってますから――」

違う――――――――――――。


狂気の亡霊が、僕を苛む。

死者は、二度と口を開くことなど無いのに。
死者は、二度と立ち上がることなど無いのに。
死者は、二度と笑うことなど無いのに。

郁美ちゃんは、けしてあんなことを言う子ではないと思ってたのに。

いくみ?

いくみって誰だっけ……。

ああ、そうだ。

あの子だ。

クラスAに、一番最後に入ってきた子。

僕の……同居人。

懐かしい……匂い。

僕は……あの子のために戦っているんだっけ。


ドクン!


……来た。
また来た。
狂気が、僕を奪おうと侵略してきた。
いつの頃からだ、こうなったのは?
そう、あれは丁度この島に来た時から――。


ドクン!!


ぐ……。
まずい……。
このままではまた衝動で人を殺す……。
使えないはずの不可視の力が暴走する……。
人外の力が……人を傷つけ、僕も傷つける……。
が……。


ドクン!!!


……。
血が、香る。
血が、滴る。
血を、感じる。
体に熱が灯る。
視界に入るのは人間。
洞窟を守るのは手練れ?
程よく肥えた血の予感。
衝動はそこから。
まずは首を寸断する。
すると吹き出す血。
思ったとおりの快い血。
手の中ではかなく散っていく命。
錆びた鉄の匂いは昂揚の潤滑油。
表面だけの良心など瓦解寸前の伽藍。
殺す。
殺す。
殺す。
いくらでも殺す。
どこまでも殺す。
いつまでも殺す。
一瞬の絶命。
痛みも苦しみも嘆きも哀れみも怒りも悲しみも恐怖も絶望も無い。
死の絶対の空虚。
満ちる。
満ちる。
体に満ちる。
空虚が満ちる。
目的の無い殺害。
意味の無い殺害。
所詮全て殺害。
だけどそれは僕が一番嫌っていたこと?
そんなことは知らない。
冷たく動く。
殺すために殺す。
泣き叫ぶヒト。
緩慢な死。
今度はそこで永遠の絶望と恐怖を味わう。
終着点は一緒。
死。
木霊する。
絶叫が木霊する。
騒音は死に似つかわしくない。
だから止まる。
永遠と思わしき静寂。
これでいい。
思う存分殺した後は、そこに何も残らない。
だがそれでいい。
命も残らない。
動きも残らない。
音も残らない。
何も残らない。
だから”僕”も残らない。


………うわああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!


「―――――――よ」

声がする。
僕を連れ戻してくれる声。
彼女の声。


「――ボディチェックよ」

僕の夢想は、ここで途切れる――。

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