道連れは


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なんでだろう。
なんでワタシはこんなとろにいるんだろう。

助けて助けてたすけてたすけてタスケテタスケテ
ここは怖い怖いこわいこわいコワイコワイ

なにがなんだかわからなかった。
難しいことは考えられない。

いっぱい人が血を流していた。

「ひぐっ。ううっ。ううっ………」
ただ涙だけが出てくる。
「がお。がお。がおがお」
強くなりたかった。
いや、強いココロが欲しかった。

恐竜さんみたいな強いココロ。
なにかあっても泣かないんだよ。でね。みんなと。お母さんと、
往人さんと、みんなでいっしょに遊んで、ご飯食べて、楽しい事
いっぱいいっぱいするの。

往人さんがおもしろい人形劇して。私がそれを絵日記に書いて、
お母さんに誉めてもらうの。そしてワタシはにははって笑って、
そして、そして・・・。

「がお・がお・がお・がお―――」

ゆっくりと呪文の言葉を唱える。
自分を強くする呪文の言葉。



・・
・・・
・・・・
・・・・・
・・・・・・・・・・ゆっくりと彼女の意識は「地獄」へと戻ってきた・・・・


………泣いてる?
………確か、郁未さん?

とりあえず、身体を起こす。そこは草原だった。離れたところに森と山が見える。
辺りを見回す。ちょっと離れたところで、天沢郁未さんが座っていた。
私に背をむけて、ぼんやりと宙を観てる。

「・・・・気がついたの?」
不意に話しかけられてちょっとびっくり。
「・・・うん」
返事をして、膝立ちで、天沢さんの方に近づく。


「ねえ。どうしたの。かな」
「・・・・・」
「お母さんたちどこいったのかな」
「・・・・・」
「ここどこだろうね」
「・・・・・」

何を話しかけても私に背を向けた天沢さんからは沈黙しか帰ってこない。

「にはは」
とりあえず笑ってみる。
「・・・・・」
「おなかすいたよねー」
「なんか食べるものさがそうかー」
「らーめんらいすなんか作ったら往人さんよろこぶだろうなー」

無視されても。話しかける。なんとなく、天沢さんは泣いてるのかもしれ
ないと思った。

「・・・・どうして?」
「にはは、ん?」
「・・・どうして笑ってられるの?」

なんの抑揚も無い声で、たんたんとした問いかけ。

「んと・・・」
「観鈴ちんバカだからね。きっとよくわかってないんだよ」
にははと笑う。
「なんか、ここにきて、嫌なものいーっぱい見て」
あれ、なんで泣いてるんだろう。
「でも、お母さんと、往人さんがいたからね。私は笑ってるんだよ
そうすれば、2人とも喜んでくれるんだよ。あ、お母さんは時々怒
るけどね。往人さんはね。困った顔したあと、ちょっとだけ笑うんだ」

なんだろう。お母さんのこと考えると胸がしめつけられるように痛
いよ。

だから・

「天沢さん。観鈴ちん行くね」
「え?」

私が立ちあがると、今までなんの反応も見せなかった天沢さんがびっく
りしてこっちを見た。

「んと、よくわからないけど、往人さんとお母さん探す」
「探すってどうやって」
「にはは。きっとなんとかなるよ。観鈴ちんふぁいと」
自分に言い聞かせる言葉。

「・・・・・んとね」
なんの感情も表してない眼で、見ている天沢さん。
「観鈴ちんバカだから。本当にバカだから、よくわからないんだよ。な
んで私達がここにいて、なんでこんなことさせられてるのか。でも、きっ
と私は笑ってないとだめなんだよ。あと、きっと往人さんやお母さんと離
れてるのもよくない」

うんうん。そう自分にいいきかせて。

だから私は、探そう。二人を。

天沢さんはぽかんと私を見えいたけど、苦笑して立ちあがった。

「なんか泣いてるのがバカみたいだな」
「ん?」
「こっちの話。………そうだよね。結末が変えられないのなら少しでも明
るく。か。私も考えよう。どうするのかどうしたいのか、もう一度」
「んん?」
「なんでもないって。ほら、いこうか」

あ、天沢さんが笑った。

「そういえばさ、あんたとあの国崎ってやつどういう関係なの」
「往人さんは。友達」
「えー。友達って――名前――――――」
「友達だって―――――」
「――――――」
「――――――」

道ずれは、変なオンナノコ。きっとお互い変だと思ってる女の子。
うん。悪くない。ね。往人さんお母さん。

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