Wheels of confusion
僕は、犯してしまった。
おそらく、もっとも卑劣な罪を、
僕は、犯してしまった。
僕は、何をしていたのだろうか。
診療所で、きみと結ばれて。
そうだ。祐介を探しに行ったんだ。
この島で再会した僕の従兄弟。
傍らには、少女がいた。天野美汐――そんな名前だった。
二人とも、とても強い目をしていた。
僕にはふたりが、この血塗れの島の、たったひとつの奇跡みたいに見えた。
祐介。美汐。二人にはせめてこれから、幸せな人生を送ってほしい。そう望んでいた。
だって僕には。
――美咲。それが僕の好きだったひと。
巡り会う前に、彼女は永遠に失われていた。
だから、せめて、他人の礎になろうと。
ここまで死ななかったのが不思議なほど。
混乱の中を切り抜けてきた。
だけど。
僕には、好きなひとができた。
守ってあげたい大事なひとができた。
柏木初音。それが彼女の名前。
見た目は小学生みたいなかわいい娘なんだけど。――祐介、笑うなよ。
いろいろあったけど、僕らは再会し、結ばれることができた。
そんなときだ。おまえに会いたい、そう思ったのは。
祐介には美汐さん。
僕には、初音ちゃん。
それに、懐かしい日常へ回帰する手がかりも見つかった。
だから、祐介にもそれを教えたくて。
だけど。
だけど、おまえは見つからなかった。
一体どこに行っちゃったんだよ。
そのうち、頭がぼうっとしてきた。
体はあんなに調子よかったのに。
時々、記憶が飛んでいた。
おまえがみつからなかった気もした。
洞窟にいたような気もした。
ようこさん、に会った気もした。
自分以外の誰かが、ずっと語りかけているような気がしていた。
そして。
あれは、「気がした」なんてものじゃない。
あれをやったのは、僕だ。
僕は、渇望していた。
――牝の臭いと、肉の欲望に。
だから、犯した。
彼女を犯し、その娘も手にかけようとした。
そして気づいた。
これをやっているのは、僕じゃないか。
そして――。
足が痛い。
こんなに歩けたのが不思議なくらいだ。
どうみても、まともに歩ける足じゃない。僕の足は。
足が痛い。
初音。
初音ちゃん。
会いたいよ。
でも。
ぼくは、どんな顔で君に逢うことができるんだ?
そんなことを考えるうち。
見つけた。
祐介。
でも、それは。
もう、死んでいた。
美汐と二人。まるで夢見るように。
とても幸せそうに。
祐介。
死んでもなおきみは。
まるで、僕の希望であるかのように。
僕は、泣いていた。
希望。
それは遙か遠くにあるように思えた。
あの時、確かに感じた幸せ。そして希望。
しかし今の僕は、
相変わらずの、混沌の中。
疲れ果てていた。
体が重くてしかたない。
ここで、眠ろう。
もうどうなってもいい。
目が醒めたらそこは、あいかわらずの混沌の中。
混乱の歯車。
でも。
次に目が醒めた時。
はたして、
僕は、
僕のままで
いてくれるだろうか。
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