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その川のほとり


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川が、流れていた。
そのほとりに、一人の少女と少年の姿。
「・・・・・・結構、早かったよな。俺。」少年が口を開く。
「うん そうだね・・・・・・でも、いいよ。浩平、がんばったよ。」少女が、それに応えた。
音も無く流れる川のほとり。
「・・・・・・ごめんな、長森。俺、おまえを守れなかった。」どうしても浩平の思考はそちらに移ってしまう。
「もう、その話はいいよ。私、あの時浩平にぎゅってしてもらえて本当ににうれしかったよ。」
「でも、俺 結局すぐに退場しちまったしな・・・・・・そうそう、おまえのリボン、七瀬にあげちまったけどいいよな?」
「うん・・・・・・七瀬さん、がんばってるかな。」長森が、遠くを見るような眼でいった。
「あたりまえだ。漢と漢の約束の約束だぞ。そう簡単に破られてたまるか。」茶化すような口調。
「七瀬は・・・・・・大丈夫だ。繭と一緒に脱出してくれるさ。」浩平はそう信じていた。
七瀬は、繭を見つけだしたろうか。七瀬は、あかねを許したろうか。
浩平にとって気がかりなのはそれだけだった。
「にしても、死んだら最初から川のこっち側にいるんじゃねーか。インチキだ。」
浩平は話題を変えた。
「せっかくこの川渡ればもう1度復活できるかもとかおもったのによ・・・」
思い出す。なんとなく見覚えがある風景。目の前の川。
きっと向こうでは長森が待っているんだ。そう思って、ひき返した。
前回とは明らかに違う、進めば進むほど目の前に広がっていく光。
浩平が、こっちは長森側だと悟るのに、そう時間はかからなかった。
「あはは・・・・・・あのときの浩平、すごく間抜けだったよー」
そして浩平は、一目散に川に飛び込み泳ぎ始めたのだった。
「なにっ 見てたのか!くうう・・・・・・不覚。」
「その川は泳いでも泳いでも前に進まないんだよ・・・私も試したし。」
「言ってくれれば止めたのによ・・・・・・ばか。」
「うーっ」
ばか と言う言葉が気に触ったのか、長森は少し顔をしかめた。

「・・・・・・そろそろ、いこうか。」
そのまましばらく2人で話した後、ふと長森が発した言葉。
「そうだな。ここで七瀬を待っててもあいつは当分来ないだろうからな。
バアサンになってるかもしれないあいつと顔なんて合わせたくねえや。」
七瀬は、生き残る。浩平の中で唯一曲がらぬ思い。
「・・・・・・浩平。」
「あん?」
「・・・・・・ぎゅって、して。」突然の懇願。
う。しまった不意打ちだ。しっかりしろ俺。何とかこの照れくさい空気を吹き飛ばせ。
「・・・・・・よし分かった、それならこうしていくぞ。」言うなり浩平は、長森を抱きかかえた。
「わっ」それは確かに、ぎゅっとはされてる。けど。
「こ 浩平〜 これ、恥ずかしい〜」「俺は全然恥ずかしくないぞ。周りになんて誰もいないんだからな。わははっ」
そう言ってから顔を上げ、浩平は気がついた。
みさき先輩、澪、住井、シュン。見知った顔が、自分と長森を見下ろしていた。
お熱いことで・・・ 目が、そう語っていた。
「あ・・・あはは」見下ろされた2人は、笑うしかなかった。
「・・・・・・さっ さあ行くぞ 長森!」照れ隠しに大声を出すと、浩平は立ちあがった。
無論、長森を抱えて。
「恥ずかしいよお〜」言う長森も、首に回した手を離そうとはしていなかった。
「浩平・・・大好きだよ。」ふと、長森が洩らした。
「ば ばかっ!こんなところで言うな!!」浩平は駆け出した。
「ねえ 浩平は?私の事嫌い?」新婚さんみたいな台詞をよく平気で吐けるなコイツは・・・浩平は、心底こう思った。

「ああ 俺も大好きだよ、ばか。」



川のほとり。
対峙する男が、2人。
「ケッ・・・勝ち逃げかと思ったのに こっちに来やがったか。坂神。」片方の男が詰め寄った。
「俺はおまえがてっきり体内爆弾を吐き出したものだと思っていたが」坂神と呼ばれた男も、それにならった。
「・・・・・・あの島では余計な邪魔ばかり入ったが、ここではそういうわけでもないだろう。」
「・・・・・・やるのか?」坂神、応える。
「あたぼうよっ・・・・・・ん?」
「どうした御堂。ここに来て怖じけづいたのか」まさかそれはない、と自分でツッコミを入れつつ、坂神がきく。
「ちょっとここでまってろ、坂神。俺はちょいと顔を合わせなきゃいけねえ奴がいる。」
言うなり御堂と呼ばれた男は、坂神の視界から消えていった。
ふと、振り返る。月代だ。月代が走ってくる。
(あの仮面は、ここまでは追いかけては来ずにいてくれたようだな)
いや、あれは割れたんだったか。しかしあの手の仮面は、思念となって残る可能性がなきにしも――――



「和樹!」
「そこ」に詠美が着いてから、まずはじめに目に付いたもの。
千堂和樹だった。
「え 詠美!?」和樹は驚いた。まさか、こんなに早いとは・・・・・・
詠美は、生かして返してやりたかった。和樹の願いはかなわなかった事になる。
「ごめんね・・・・・・和樹。もっと遅くに来る予定だったけど、ちょっと早まっちゃった・・・・・・」
そんな詠美の瞳を覗きこみながら、和樹は問うた。
「詠美、おまえは精一杯生きたか?」
「うんっ 和樹はいなくなったけど、あたしのしたぼくが・・・」詠美は固まった。
目の前に、そのしたぼくが。
御堂が、そこにたっていた。



「ゲーック!お取り込み中だったかな?」
御堂は下卑た―――にしては嫌味のない―――笑みを浮かべた。
「紹介するわ和樹。あんたの後釜したぼく二号よっ!」胸を張りつつ詠美は言う。
「いいかげん学習しやがれっ!したぼくじゃなくて下僕だ げ・ぼ・く!!」
うんうん、と和樹はうなづいた。
「ふーーーーん てめえが和樹か。ふーーーーーん。」御堂は和樹のほうを見やると、品定めするように言った。
「な なによう・・・」詠美が自信なさげに言う。
「いやぁ・・・てめぇが寝言で言ってた名前の持ち主はどんな面構えしてるのかと思ったら・・・」
「え なななななっ!」聞かれていたのか?
「バーカ 冗談だ。」さらりと言う。
「むきぃぃぃぃっ したぼくの癖に生意気ようっ!」
「てめえ したぼくって漢字で書けるかぁ?」「ふみゅううっ!!」
そのやり取りを見ながら、和樹が自分と御堂を重ね合わせていたのは無理からぬことだったといえよう。

「・・・・・・一緒に行かないの?」詠美が言った。
「おお?一緒にいていいってのか?」御堂が返した。
「そ それは・・・その・・・」
「ま 俺も人待たせてるんだ。逃げるのが得意な奴でよぉ。だからこうして追いかけねえと・・・・・・」
それっきり、御堂は風のように詠美たちの前から姿を消した。

詠美と和樹は、自分達を呼ぶ声を聞き、その方向を見やった。
「・・・・・・あ」
瑞希がいる。由宇がいる。南さんがいる。彩がいる。あさひちゃんがいる。郁美ちゃんがいる。千沙もいる。
大志は、と和樹は思ったが、どうやら瑞希の左手で引きずられている物体がそうであるらしかった。
顔は見るも無残に張れあがり(でもメガネは無事)、服もぼろぼろになり、
あげく尻にテニスラケットが刺さっているさまは和樹を爆笑させるに十分な破壊力を持っていた。
「さって、行くか詠美!」「うん!」

たとえこのあと生まれ変わって、まためぐり合う事があるのなら。
そのときは またこみパの会場で――――――――――



雨の通学路。
茜は、「その場所」に立っていた。
(泥をすすってでも生きてここに帰るつもりでしたが―――)
自嘲気味に、笑う。
(結局、こんな形になってしまいましたか。)

雨は降りつづける。ふと、茜は時計に目をやる。もう学校へ行かなければいけない時間だ。
―――いつもならば。
(もうすぐ、おむかえが来るかもしれませんから。)
茜は、ずっとそこに立っていた。

「・・・・・・あなたが、お迎えでしたか。」茜は目の前の少年に問いかける。
「まあ、そういうことにしておいておくれ。」少年―――シュンは、微笑みながら答えた。
「・・・・・・地獄からの、使者ですか」
「とんでもない。君に聞きに来ただけさ。」
「私に・・・・・・?」
「君は、いつまでこんなところで足踏みしているのか、とね。」
「・・・・・・」
「君を待っている人だっているんだ。ほら、なんて言ったっけ。」
「・・・・・・祐一。」茜は少し胸が痛むのを感じたが、構わず続けた。
「・・・・・・私は、あの人には会えません。」
「ではあっちに行くかい?君の初恋の人が待っている、あそこへ。」
「・・・・・・あの人には会えません。こんな心では、とても。」
「では、どうするのかな。」
「・・・・・・逝きます。あのひとも、祐一もいないところ・・・・・・地獄へ」

「それじゃ駄目だよ。地獄が救いの場になってしまっては地獄である意味がない。」
「・・・・・・でも」
「それに、上で君を探しつづけている祐一君はどうなるのかな。かれには、あっちが地獄になる。」
「・・・・・・」
「残された者の苦悩を、君は知らないわけじゃないだろう。」
「・・・・・・」



相沢祐一は、川に沿って歩いていた。
歩いていれば、いつかは茜に会えるかもしれない。そう信じて。
そして、島での茜と、空き地での茜と。
別人であると信じている自分との葛藤が、ずっと続いていた。

しかし、かといってもう、名雪や秋子さんには顔を合わせられない。
美坂姉妹にも、合わせる顔がない。
ふらふらと、ふらふらと、祐一は歩いていた。

「祐一」
自分を呼びとめる声がする。振り返るべきか、否か―――
「祐一」
ああ、、この声は。振り返らなくちゃならない。
「・・・・・・茜」
しばらくの間、無言で、ただ見つめあっていた。

「祐一は、どうして行かないの?」
茜が訊いた。
「・・・・・・行けないよ。俺は、みんなに合わせる顔がない。」
悲痛な顔だった。
「・・・・・・あの世とも、この世ともつかない世界があります。」
「・・・・・・え?」
「私はそこに行こうと思います。・・・・・・祐一。あなたは、そこに行く事を望みますか?」
「え?え?」話がよく飲み込めない。つまり、そこには、名雪たちもいないという事か・・・・・・?
「思いだけが交錯する場所。そこへ―――」
「・・・・・・茜が行くのなら、俺は、行くよ。・・・・・・何処へでも。」
きっぱりと、行った。
「・・・・・・では。」
茜は、手を差し出した。祐一が、それを握った。

音も無く、二人の姿が消えた。



(安心するといい。茜。君の言う「あのひと」と会う事は無いよ)
シュンは、先ほどまで茜が持っていた傘を持って、「その場所」に立っていた。
(僕は、浩平たちと一緒に逝くからね)
雨は、激しさを増して。
(僕には、茜にそこまで想ってもらう資格なんて無いんだ)
ゆっくりと、空を見上げた。茜は―――いや、祐一は、どちらを選んだのだろうか。
きっと、いや、まちがいなく、あちらの世界。
いずれにせよ、もう、会う事は無いだろう。茜とは。
(さてと・・・・・・ぼくも、逝くか。)

主を失った傘は、そのまま地面に落ちて。
かつて、一人の少女が、「待ちつづけた」その地面を守るように。
雨は、未だやむ事も無く。
いつまでも いつまでも――――――――――

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