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私・ぼく・俺


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 唐突に、それはやってきた。
「う、ぐ、ああああああああああああ!?」
 二度目の発作。
 そら自身も言っていた、先程の施設近辺での出来事――即ち神奈の降臨――
が引き金となってのことだった。ただでさえ不安定な状態故に、ちょっとした
きっかけがあれば、それは溢れ出る。

 俺の記憶。

 俺の記憶は、カラスである私には荷が重すぎた。何故そのような記憶が私と
共にあるのか、それは分からない。ただ、俺の記憶は忘れちゃいけない。俺の
想いは受け止めなくちゃいけない。それは私にも分かっていた。
 だが。
 これ以上、同じ器の中で私と俺は共存できない。私では無理だ。私も、俺も、
どちらもが壊れてしまう。今はまだ、壊れるわけにはいかない。私も、俺もだ。
私にも譲れない想いがある。俺がそうであるように。
 だから私は、全てをぼくに託すことにした。
 ぼくならば、きっと俺の想いを少しでも多く受け止めることができるから。
 私の想いも。
 俺の想いも。
 少しだって無駄にはできないから。



「そら!?」
「お、おい、大丈夫か!?」
 ポチとぴろは、そらに駆け寄った。一度似たような発作は見ていたとはいえ、
その症状の苛烈さを見てじっとしていられる者などいるまい。
 やがて、発作が収まり。
 しばらくしてから。
「……大丈夫?」
 ポチが念を押すように尋ねる。
「……うん、大丈夫だと思う」
 返ってきたのはそんな返事だった。
「…………」
「…………」
 ぴろもポチも、黙り込む。
 先に動いたのはぴろだった。
「おい、お前――誰だ?」
 ぴろには分かった。それが今までのそらではないことを。そして、ぴろには
分からなかった。そらであったそれが何になってしまったのか。
 ポチも同じ疑念を抱いていた。

「ぼくは――」

 ぼくは一瞬躊躇した。
 本当に、ぼくはぼくなのだろうか?
 それでも迷いを振り切って。

「――ぼくは、そらだ」

 そう。ぼくはそらだ。



「ぼくは行かなくちゃいけない。彼女のところに。ぼくは約束したんだ。彼女
のそばにいるって。彼女にずっと笑っていてほしいから」
「…………」
「…………」
 ぴろも、ポチも、黙ってそらと名乗ったそれの言葉を聞いていた。本当に彼
はそらなのだろうか? ただそれだけを確かめるために。
 やはり、先に動いたのはぴろ。
 すぐ目の前にいる少女を指し示し、口を開いた。
「……で、確認しとくぞ? 彼女はお前の探してる彼女とは違うんだな?」
「違うと思う」
「そうか。じゃあ行こう」
「え?」
 そらは素っ頓狂な声を上げた。
「そう何度も言わせるなよ? 全てを決めるのは、お前だ」
「ぴろ――」
 言うべき言葉はただ一つ。
「――ありがとう」
 ポチもしゃしゃり出てきて、告げる。
「なら、私ももう一回言わなきゃいけないかしら。私は、貴方のやりたいよう
にやらせたげるって、決めたから。それと、一応確認しておきたいんだけど」

 それがさも当然であるかのように、言った。

「私のことは貴方が運んでくれるのよね?」



「ちょっとちょっと、何なのよ……」
 マナは面食らっていた。
 突然カラスが騒ぎ出したかと思えば、急に静かになり――やがて、動物達はその
姿を消していた。
「ん……」
 とりあえず、立ち上がろうとする。やはり軽い目眩は覚えるが、立とうと思えば
立てる程度のものだった。確実に体力は回復している。頭も、身体も、そして心も
軽くなっている。だが、今は動くべきではない。彼女は再び地べたに腰を落とした。
 自らの傍らに置かれていた非常食を見やる。自分を助けてくれたあの男が置いて
いってくれたのだろうか?
 正直なところ、食欲はなかった。だが、耕一が戻ってきてくれた時に足手まとい
のままではいたくはない。少しでも体力を回復しなければならなかった。
(少しぐらい無理してでも、食べないと。私だって頑張らなきゃ――)
 そして、非常食に手を付けようとした、その時。
 ――がさり、と音がした。すぐ近くで。
「誰?」
 不用心だったかもしれない彼女の問いかけに、それは即座に答える。
「マナちゃん?」
 聞き覚えのある声だった。そう、この声を忘れるはずがない。
「俺だ、耕一だ」
 待ち人、来る。
 果たされた約束。

 そして、そらも。
 約束を果たすべく、二人の友と捜索の旅に戻った。



【観月マナ、柏木耕一と再会】
【そら、ぴろ、ポチ、再び捜索の旅へ】

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