暗き闇にてうごめくモノ
――ガシーン――
漆黒の闇の中に金属音が響きわたる。
その深い闇の中に一匹の獣が居る。
「………ククク、俺は何故ここに居るんだ?」
その獣―鬼と呼ばれる者―が呟く。
「目の前にはこんなにも極上の獲物が居るというのになぁ」
――ガシーン――
鬼の腕が閉じこめられている檻を殴る。
だがその太い丸太の様な腕で殴られても壊れる様子はない。
「フン。やはり無駄か」
傷一つ付かない鉄格子を見て俺はそう結論づける。
あの千鶴とかいう同族の女と宿主が会ったときからこの檻は強固な物となっている。
それはすなわち宿主の精神が乱れていないということ、
つまり俺がここから出られる可能性がほとんど無くなったということだ。
だが、目の前に居る極上の獲物を見てこのまま指をくわえて見ていることは出来ない。
そんなことは狩人の名折れだ。
だが、どうする?
俺は自問自答する。
もはや以前のように宿主の理性を突き崩すことは恐らく不可能だ。
ならば………。
この理性の檻が最も弱くなる瞬間に俺の力を全て使って破壊することに賭けるしかあるまい。
理性を突き崩さなくとも、宿主の意識そのものが無くなればいい。
もはやこの様な賭けに出なければこの体を乗っ取ることは不可能だ。
失敗すれば俺そのものが消えることになるだろう。
だが、そんなことですら目の前の獲物を逃すことに比べれば大して事ではあるまい。
ふと、外の世界を見てみる。
力の奔流を感じる。
どうやら、あの時の女のようだ。
ククク、面白い。
また一人俺の狩るべき相手が現れた。
やはりこのままこの檻に閉じこめられているのはあまりにも惜しい。
今すぐにでもこの檻から出ていきたい衝動を抑える。
今はまだその時ではない。
その瞬間が来るまで少しでも力を蓄えておかなければなるまい。
俺はその場に寝ころぶとどうやってあの獲物共を仕留めるかを考え始めた。
【鬼 力を蓄えるために休憩中】