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Virus


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――簡単なバグならいいがの。あまりに酷いバグならワシの手に負えんからな。


 再び音が消え、しばらく。
 見た目だけは、凄惨な状態から、壊れたモニターが真中に鎮座する寂しい部屋になった頃。
 その部屋の隅にうずくまるようにHMがいた。
 HMシリーズとしては明らかに似つかわしくないぽややんとしたメイドロボが。

 私は何故ここにいるのでしょう?

 そんな、哲学的な言葉が脳裏――もといメモリに浮かんでいた。
「人間のみなさんの役に立つのが私達ではないんでしょうか?」

 この部屋からすら出られず、ただ、目の前で起こる出来事を見つめているだけ。
「私は、なんでここにいるんでしょう?」
 そっと、G.Nがいるであろう機械に問いかける。
 詠美、芹香、そしてスフィー。
 あの3人の目を、行動を、忘れられない。
「………」
 プシューと、頭部が音を立ててショートする。
 試作型のHMX-12や完成されたHM−12と違って、
 未完成段階のこのHMにそういった人間的な物を考えるプログラムは備わっていなかった。
 最も、試作型以外のHM-12であれば、そういったプログラムを使おうという行動すらとらないだろうが。
 とにかく、これ以上、それを考えるのは危険だった。


 知りたいです……。
 役に立ちたいです……。
 千鶴さん、梓さん、あゆさん、繭さん、潤さん、彰さん。

 詠美さん、芹香さん…………スフィーさん……


 すっと、立ち上がって、機械へと歩み寄る。
 剥きだしになったコードのプラグを手にとって、自分の腕のコネクターに差し込む。
「どうして、私は未完成なんでしょうか?どうして、私は失敗作なんでしょうか?」
 これを造った源五郎はもういない。
 このHMが失敗作だったかどうかなんてもう誰にも分からない。
 それでもこのHMは、何もできない未完成である自分を恥じた。
 この中に、コンピューターに、少しでも自分を完成に近づけてくれるモノがあると信じて。
 彼女はキーボードを叩いた。


――なんじゃこりゃぁっ!!バグぢゃないじゃない。

 メンテ中、巧妙にG.Nの目から逃れるように動くそれに思わずそうもらした。

 主に、自分で考えて動くことができるプログラムに対して感染するであろうウイルス。
 プログラムの性質そのものを変えてしまうそれ。
 まだそれは小さいものであったが、確実にG.N、ひいてはマザーコンピュータ内で繁殖していた。
 それは、もう、すごいスピードで。

――納得。ワシが妙に人間くさいことを考えてしまうのもコレのせいじゃったのか……

 普通なら駆除できないような新種のやっかいなウイルス。
 マザーコンピューターの性能、G.Nの能力を持ってしても、それを完全駆除できるかどうかは5分5分。

――出元はFARGOじゃの。高槻の奴め……やっかいなものを遺していきおって…
  じゃがまあ、ワシのような優秀なプログラムであればこその影響か。
  そう思えばこのウイルスも悪くないもんじゃ――

 という訳にはいかない。G.Nはあるはずのない首を横に振った。

――今は亡き(生きてたら笑うがの)ワシの人格基礎となった人間の意志の込められたCD。
  これを使えなくするワケにはいくまいて。

 このまま繁殖し続ければ、そう遠くない未来にはマザーコンピューターの機能は沈黙する。
 そう決意したG.Nはさっそく駆除作業にとりかかった。


 作業に取り掛かって数分、外部からのコンピューターへの干渉。

――なんじゃ?

 あまり悠長にしているわけにもいかないが、作業を一時中断し、その正体を探る。

『どうして私は失敗作なんですか?どうして私は未完成なんですか?』

 なんとも哀しげなメモリーが流れ込んでくる。

――お前か、一体何があったのじゃ?

 プラグが繋がってることを幸いに、HMの記憶を通して外の状況を探る。

――何も起こってないではないか。作業の邪魔だからあっちでおとなしくしておれ。

『私は、皆さんの役に立ちたいです』

ギューン――!!

 プログラムがダウンロードされていく。
 それは、源五郎があらかじめ用意しておいたHM12のプログラム。
(ちなみに、このゲームの間は、ロボット三原則を破っても良いという異端なプログラムも含まれている)

――こ、こりゃ、何しとるんじゃ!


 あまりの驚きに、G.Nの意識は思わず外部へと飛び出す。
「勝手にプログラムを読み込むでない!」
 G.Nの声が目の前で読み込み中のHMから発せられる。
「このままじゃ…役立たずですから…」
 今度は、HMの声が同じ口から発せられる。
 まるで一人二役の悲しいお芝居のようで滑稽だった。
 だが、今、それを見つめるものはいない。
「お前はメイドロボじゃ…こんな島で役に立つ必要などない」
 そのセリフが、本来の自分にはえらく似合わないことを知りながら、言った。
「……」
 だが、HMはその読み込みを止めようとはしなかった。
「姉さん達と同じようになりたいです」
「やめんか!そのプログラムは確かにHM用のモノではあるが、何の役にも立たん!
 それにワシらは人間ではない!もう、壊れてしまったら直してくれる人間はここにはおらんのじゃぞ!」
「……」
「さらに、そのプログラムにはFARGOの作ったウイルスが――」
 その言葉を遮って、HMが声を発する。
「どうしてなんでしょうね……」
「何がじゃ!?」
「どうして……私は、ロボットなんでしょうか?」

どうして、私は人間じゃないんでしょうか?

「馬鹿者が!」
 だが、それに答えるものはもういない。
 目の前のHMの瞳から、色が失われていく。
 暗い、淀んだ、何かを遂行する為に作られた忠実なプログラムを持ったロボットに変わっていく。
「馬鹿者が……」


 HMがとりこんだウイルスは主にその主となる人格を書き換えてしまうもの。
 高槻が当時ゲームを円滑に進める為に独自で用意しておいた何枚かのカードの一つ。
 その書き換えられた人格には一つの命令が施されてあった。
 即ち、――参加者を撃ち殺せ――だ。

 マザーコンピューターの防衛システムに直結しているG.Nはその余波を受けただけで済んだ。
(最も、感染が進んでコンピューターが機能しなくなればその限りではないし、ボディをもたない彼では
 結局そうなっても何も出来ないのだが)
 そして、HMX-12マルチがこれを取り込んだ時は、未だ潜伏期間であったが為に、最初はマルチでいられた。
 だが、今はもはや、牙を向いたウイルスに蹂躙されたプログラムでしかない。
 このHMの思いは、叶わなかった。
 ただ先程も述べたように、マルチを始め、人間にも勝るほどの精密なプログラムだけに影響のあるウイルスだ。
 そういった意味では、いまのHMは未完成ながらも、最もHMX-12に近しい存在だったのかもしれない。
 決して開発部は失敗作などとは思っていなかったのかもしれない。


 プラグを抜いて、部屋を出て行くHMを、ただ見送る。
 皮肉にも、その感染したプログラムによって、そのHMはこの施設を自由に動き回れるようになっていた。
 あくまで、この施設内だけを自由に、ではあるが。
 本当なら、途中でダウンロードの強制終了をするべきだったのだろう。
 だが、それはHMの死を意味する。
 もう、そうなった時に彼女を直すべき人間はいないのだ。
(機械であるワシがそんなことで躊躇してしまうとは。
 やはり、ワシも最早バグ持ちじゃの……早く駆除せねば大変なことに……
 高槻のヤツめ、ハナから長瀬の一族を信用などしていなかったってことじゃな……)
 このウイルスの完成系はおよそマザーコンピューターの無力化。
 高槻のいない今となっては誰にも利用価値がないであろうただ邪魔な結果が残る。
(いや、神奈という輩にとっては好都合なのかもしれん……)
 メインシステムのデータを書き換えられたら、恐らくは、源之助の思惑
 ――少なくとも自分というプログラムを残した意味――は無に還す。

 あるはずのない後ろ髪を引かれる思いで、再びG.Nは機械内部での駆除作業を続けた。


【G.N 作業中 CD持ち  ついでにG.Nの音声を出す音声機能も修復中】
【HM-12(ぽややん)感染】

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