激昂


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「どうだい?それとも僕じゃ、役不足かな?」
 月明かりが二人に差し込み、彰の体がはっきりと神奈にも見える。
「おお、そなたは確か・・・」
 そういって神奈が考えるより早く、
「そう、間抜けにも体を乗っ取られ、大切な人を殺してしまった愚かな男、七瀬彰さ」
 冷めきった言葉を、彼は口にした。

「それで彰とやら、一番大切なものをそなたから奪った余が憎いか?」
 おどけた口調の神奈。明らかな挑発。
「ああそうだ。憎いさ。彼女の首を絞めた僕自身と同じぐらいね」
 それに動じることなく、自分の思っている事を淡々と話す彰。
「でもさ、だから僕は」
 その言葉と共にいきなり彰がシグ・ザウェルショート9mmを片手で構え、
「生きて、貴方を殺してやろうと思える!」
 躊躇いなく、引き金に、力を込めた。

 ダン!ダン!ダン!

「ふん、余はきっかけを与えたに過ぎん。事実そなたは、あの小娘を手に掛けようとしていたではないか」

 ズガガガガガガッ!

「違う!僕は初音に生き残って欲しかったんだ!だから彼女の甘い考えを振り払ってやろうとしてたんだよ!」

 ダン!ダン!

「ふん、所詮はおぬしの偽善よ、あの小娘が大切ならなぜ守ってやろうとしなかった?
 その上ちっぽけな己の嫉妬に付け込まれ、鬼程度の愚物に心を奪われて、仲間を傷つけ、殺そうとした。余が知らぬとでも思ったか?」

 ズガガガッ!ガガガッ!

「うるさい!お前みたいな化物に、僕の気持ちがわかってたまるか!」

 ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!

「化物とは心外なことを申す、これでも余は羽以外、お主等と変わらんよ」

 ズガガガガッ!

「そんな事は僕の知った事か!今、僕はお前が憎い!お前を殺す理由なんてそれだけで十分だ!」

 ガン!ガン!

 叫びと共に、銃を撃つ彰。
 それは初音が死んでから、初めて見せた憤怒。
 彼は、すべての怒りを、目の前の怨敵にぶつけていた。



 カチ!カチカチ!
「くそ!弾が・・・」
 当然である。
 後先を考えずに撃てば、こうなるのは当たり前だ。
「なんじゃ、この筒が無くなれば、何もできんとは。所詮、人間よの
 だが・・・・」
 同じく弾の切れたM4カービンを捨てた神奈が冷酷な笑みを浮かべ、右手を掲げる。
「余は、違うぞ」
 掲げた手に集まった光の矢。それを彰に向け、連続して放つ。

 ヒュン!ヒュン!ヒュン!

「うおっ!」

 グサッ!

「ぐおおおおっ!」
 急所への矢はなんとか何とか回避できたものの、右肩に矢が一本突き刺さった。
 すぐに矢は消えたが、確かに残る鈍い痛みが体中に広がる。
 そのまま地面に倒れこむ。猛烈な痛みで、今にも意識が飛んでいきそうだ。
(まだだ!こんな所で死んでしまったら初音に合わす顔がない!どうにかしろ!考えるんだ彰・・・)
 神奈を殺すまでは死ねない。ただそのためだけに彼は頭を振り、立ち上がる。

 今、この状況で考えられる方法は二つ、突撃と狙撃。
 が、何も無い所から攻撃できる神奈は、いわば弾数の無い銃を持っているようなものだ。
 そんな奴に素手で突っ込むのは無謀だ、だから突撃は有り得ない。
 なら銃で致命傷を与える手段が最も効果的なのだが、自分には弾の入っていないショート9mmだけだ。
(どうすりゃいい?どうすりゃいいんだ・・・・)
「もう抵抗する気も無いか?やはりお主も役不足な相手よ・・」
 神奈が近づいてくる。今度こそ自分を確実にしとめるためにおそらく矢の回避不可能な範囲まで。
(仕方がない、一か八か!)
 そう、正に飛び出そうとしたその時。
「あきらああああっ!」
 別れてから数時間しか経っていないのに、何故か懐かしく感じる声が――聞こえた。



「うおおおおおっ!」

 ズガァァン!

「彰!死ぬな!今梓達もこっちに来る!」

 ズガァァン!ズガァァン!

 射程距離の外である事がわかっていても耕一はベレッタを撃つのを止めはしなかった。
 派手な行動によって、彰への注意を自分に逸らす。
 いわゆる『囮』だ。
(な、馬鹿な!あの男はこの彰とかいう男の為に、怪我を負ったはずの男ではないか!)
 そしてそれは、意外な形で神奈にも影響する。
(どうしてじゃ・・どうして皆、こうまでして他人を庇う?所詮、信じられるものなど何も無いと言うのに、ああ、不愉快じゃ・・)
「不愉快じゃああっ!」
 そう叫びながら、耕一達のいる位置に、無数の矢を放つ。
 おおよその方向に撃ったので命中率は低いが、威嚇には十分な効果を発揮した。
「うわ!な、なんだこりゃあ!」
「くっそう!隠れろあゆ!観月さん!」
「う、うぐううううう!」
「きゃあああああっ!」

 矢に襲われたものが、悲鳴をあげ、耕一達はまさに阿鼻叫喚の状態となった。



「はあ・・はあ・・はあ・・本当に不愉快な奴らじゃ。
あやつらの始末は後でするとして、まずはおぬしから・・・」
 そこで気付く、彰が――いつの間にか居ない。
「ど、何処じゃ!何処におる!」

 ピピピピピピ!

「そこにおるのか!」

 音のした方向に、三度矢を放つ。

 ヒュン!

 だが、何度撃っても手ごたえが無い。まるで、そこには居ないように。
(おかしい・・・様子が変じゃのう・・・)
 神奈もそれに気付き、音のする方向に駆け寄る。
 そして、
「なんじゃこれは!」
 そこにあったのは、
 アラームの鳴っている時計と、
 高野が持っていた、バッグだった。

「ゲーム・オーバー」

 神奈が、今度こそ確かに聞こえた人の声に振り向くと、
 サブマシンガン(イングラムM10)を構えた彰が、冷めた表情で立っていた。

 パララララララララララッ!

「くうううっ!」
 避けれないと判断した神奈が己の身にかかる負担を承知で、障壁を張る。

 カカカカカカカカ!

 とっさに張った障壁だが、銃弾程度は弾く。
 が、
 爆発までは、防げない。
 
 パララララララララララッ!

 二度目のサブマシンガンの斉射が、
 高野の手榴弾入りのバッグを、蜂の巣にした。

 ドゴオオオオオオオオオオオオオン!

(おっ、おのれえええ!かくなる上は!)
 身を焦がす熱で、神奈は本人の意識が消え去る前にスフィーの体から抜け出し、一度空に戻る。
 そして、それは、
 スフィー自身の死を、意味していた。



【スフィー 死亡】
【七瀬彰 軽傷 イングラムM10所持】
【神奈 一時上空へ】
【残り 11人】

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