遺志、そして意志
けたたましく響くアラームの中で。
神奈、北川、観鈴、ぴろ、ポチ――
そらの目覚めに――魂の叫びに気付くことができた者は誰もいなかった。
それは溢れ出る記憶――『俺』の現出だった。
やっと観鈴に会えたのに、俺は何をやってるんだ?
あの姫君に好き勝手やられっぱなしじゃないか。
もう残された時間も少ないってのに――
もはや人ではない俺が、俺を俺として認識できる状況になっている。
それは俺自身の崩壊を示唆していた。
烏の器では、俺の人間としての全てを受け止めきることはできない。
『私』の計らいにより延命はされていたが、こうなってしまった以上、崩壊
は避けられ得ぬものだった。もう俺の崩壊は避けられない。せめて、俺と共存
していた『ぼく』や『私』だけでも無事で済むことを祈るしかない。
俺にはもう。
あいつのお守りはできないけれど。
あいつの側にいてやるって約束すら守れないかもしれないけれど。
そうだな、北川。お前になら頼めそうだな。この際贅沢は言ってられないか。
俺のことをぶん投げたのは水に流してやる。だから。
観鈴のこと、頼む――
――国崎往人としての記憶も、意志も、そこで壊れた。
だが、遺志だけは継がれていた。
あれだけ激しい衝撃を受けたのだ。本来ならばしばらく動けないはずだった。
しかし、遺志には失われていた意識を覚醒させるだけの力があった。
(……ぼくが、なにかをしなくちゃいけない)
その遺志は『俺』のものだった。でもそれは、『私』の、そしてぼくの意志
でもある。紛れもない、そらの意志。
彼女を。
観鈴を守らなくちゃいけない。
(でも、どうやって?)
わからない。けれど。
観鈴を守らなくちゃいけないんだ。
【そら、目覚める】
【そらの中の『俺』消滅、その遺志は受け継がれる】
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