to the end ―遊泳―
道の真ん中で、俺は、はっと顔を上げた。
ひどく寒い。
それに、一瞬、夢を見ていたような……。
いや、それは夢ではなかった。
俺の手は、やはり血で汚れていた。
洗っても決して落ちることのない、ココロの痕から流れ出た見えない血だ。
それに気付いたとき、俺の中に、スッポリと「穴」が開いた。
「あの時」、俺は彼を迷わず殺していればよかったのだろうか。
それとも、ナイフを受け入れるべきだったのだろうか。
多分どちらでもよかった。よかったはずだ。
なのに俺はどちらも選べず、殺したくないなんて言いながらも、恐怖に負けた。
無意識のうちに殺してしまった。
殺意をコントロールできなかった。
できなかった……。
――俺は、やはり大切な何かを失くしてしまったんだ――
ドクン
何かが、俺の中で蠢き出した。
これは……俺の「鬼」だろうか。
今の俺にはお似合いだった。
後味の悪さと、虚無と、決して消えない罪が、俺を蝕みはじめた。
いや、それはもう終わっていたかもしれない。
空に輝いていたはずの星明かりは、今や一つも見ることができなかった。
闇、深く、進んでいく。
それは本物の景色なのか、それとも俺の心の幻想なのか。
俺にはわからなかった。
救助船が島に到着したが、いくら探しても、柏木耕一の姿を発見することはできなかった。
そして今も、彼の行方はわからぬまま。
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