to the end ―幻想―


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 唐突に。
 全く唐突に。
 道の先に何かが見えた。
 目をこらすと、それは驚いたことに人だった。
 どういうことだ。俺達以外にも、まだ?
 それは男の子だった。
 半袖半ズボン、縁の広い麦わら帽子をかぶっていた。
 そのせいで、顔は、見えない。

 と、男の子が振り向き、道の先を走っていった。
 俺も慌てて後を追う。
―待ってくれ。君は誰なんだ―
 多分、そんなことを言いながら。

 どれだけ走っても追い付かない。
 まるで俺の速さに合わせて走っているようだった。
 試しに立ち止まってみたけれど、彼はどんどん先を行ってしまった。
 はぁ、と溜息をつき、俺も再び走ろうとする。
 その時だった。
―やめた方が、いい―
 耳もとで誰かが囁いた気がする。
 当然ながら、誰もいない。それに、それは自分の声のように思えなくもない。
―この後に及んで何をしたい。何があるかわからないんだぞ―
 声の言う通りかもしれなかった。
 だけど……それでも知りたい。
 何を知りたいかもはっきりしまないまま、俺は男の子の後を追った。

 そして、着いた先は、公園だった。

 ブランコがゆれている。
 さっきの男の子が座っていた。
 おいでよ、とその子が言った。
 俺は何かにひきよせられるように、隣のブランコに座った。
 訊きたいことがあったのに、どうしても、声が出せなかった。


―どうだった。この三日間―
―どうも何も……最悪だ―
―いっぱい死んだね―
―あぁ、死んだ―
―あなたも、殺したね―
―……―
―どうして殺したの?―
―……―
―どうして―
―できれば、そんなことはしたくなかった―
―なら、どうして―
―仕方なかったんだ。殺さないと、皆、殺された。皆を、助けられなかった―
―……―
―仕方なかったんだ。仕方なかったんだよ、ちくしょう……―
―……―
―誰だって……傷つけ……傷つけられるのは嫌だ……―
―……―
―それでも生きていくには、仕方なかったんだ―

 ふっと、男の子の手が動いた。
 手が俺の方に伸びて。
 俺の腹には、深々とナイフが突き刺さっていた。

 僕を殺せばいい、と、彼は言った。
 いつの間にか、俺の手にはナイフが握られている。
 それを不思議に思う余裕は、なかった。
 殺せばいい、生きるためなら、殺意をコントロールできるなら殺せばいい、とまた言った。
 無理だ……出来るわけがない。
 この島の悪夢は終わった。ゲームという呪縛が解けた今、もう誰も殺せるわけがない。
 俺は、もう殺せない。殺せるわけがない。
 こんな所でわけのわからないまま死にたくはないけど。
 だけど、殺せるわけがないんだ。

 なら死ねばいい、と男の子の持つナイフが俺の心臓を狙う。

 死にたくない……
 ……殺したくない
 死にたくない……
 ……殺したくない
 死にたくない……
 ……殺したくない

 俺は一体、どっちなんだろう。


 そして気付けば。
 男の子のナイフは俺の胸に。
 俺のナイフは男の子の胸に。
 深く、深く刺さっていた。

 ゆらりと、男の子の体が揺れる。
 風に帽子がさらわれる。
 そして見えた彼の顔は……
 顔は……

 顔が、なかった。

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