融けない記憶
知らない。
何も知らない。
だって知る必要が無いから。
他の事なんて必要ない。
要らない。
何も要らない。
だって見つけたから。
探し物、見つけたから、。
だから他のことなんて必要ない。
ねえ、大切なものは一体何か、知ってる?
――私は、知ってる。
『でも僕はっ!』
『はるかのことを本当の妹だっておもってるから!』
『それを覚えておけっ!』
――ほら、こんなに。
私の大切。
私だけの大切。
私だけのりょうすけ。
私だけのお兄さん。
絶対に、離しは、しない……。
「……ん」
目覚めればそこは暗闇の中。
いや、本当に目を開いたのかどうかさえ怪しい。
真っ暗。
真っ黒。
信じられないほどの闇。
どうして私はこんな所にいるのだろう?
ぢゃり……。
右手が重い。
よく確かめてみると右手だけじゃない。
全身を覆うような疲労感を除いても、まだ異常に感じられる負荷が在る。
これは……楔?
戒め?
よく、テレビとかで見る。
西洋の奴隷や犯罪者が足首につけているような、あれだ。
鉄球、なのか?
視界は完全に塞がれているようなものなので、判断はつかない。
だがこのうつ伏せの姿勢から、上半身を上げることさえ出来ないのだから、
その重さはたいそうなものだろう。
どうして、こんなことに――。
ヂャッ。
「ロスト体でありながらも、無意味に生き続ける生物…」
「…やっと見つけた」
「――ハエ叩きでハエをペシッて叩くみたく」
「命に従い消去する」
ヂャッ。
「ひぅっ!?」
恐怖が、私を駆り立てた。
持ち上がらないはずの両手で、顔を覆おうとする。
だが、それはその通り叶わない。
一瞬、目の前を染めた紅。
あれは誰の血だったの?
私?
それとも……。
……郁未?
「私は……」
喉が渇く。
脅かすものなど此処にはいないはずなのに、無性に乾く。
言いようの無い不安が、心を鷲掴みにする。
助けて……。
誰か助けて……。
誰でもいい、お願いだから……。
郁未……由依……。
……………………良祐。
私が気付いてしまう前に。
本当のことを思い出してしまう前に。
誰か連れ出して、ここから。
私を遠くに連れてって。
お願い……。
「……私、何故生きてるの?」