閉ざされた教室
隣にあるのは、あかいカタマリ。
頭の半分を吹き飛ばされ、きれいだったろう顔が見事に歪んでいる。
見も知らぬ少女。
「――ッ」
吐き気がした。
目をどんなにそらしても、あのうつろな眼だけは私を追いかけてくる。
これは夢じゃない。
これは、ゆめじゃない。
「049番、新城沙織さん」
また、知らない子が教室を出ていく。
扉を開ける間際、その怯えた視線がちらりと少年に向けられるのが見えた。
……知り合い、なんだろうか。
だけど、次に生きて会える保証なんか何処にもない。
この他人ばかりの群の中で、信用なんてできるはずがない。
ぎらついた眼をした年かさの男。涙をこらえていた緑の髪の小柄な少女。
何度もしゃくりあげ、追い立てられるように教室を飛び出した眼鏡の子。
スタート直後、毅然とした眼で教壇の男を睨んで出ていった風変わりなひと。
――誰も彼もが、明日には私を殺すかもしれない。
振り返った先には、母親にしがみついて泣いている名雪の姿があった。
あのことイチゴサンデーを食べることは、もうできないんだろうか。
名雪。名雪は私を、殺すんだろうか。
「お姉ちゃん……」
か細い声にはっとさせられて、私は隣に座っていた栞を見た。
「置いて、いかないで」
押し出すように発された言葉。
「ひとりは、いや…」
今にも泣き出しそうな、頼りない声。
……ああ、そうだ。私は、わたしのできることは。
無言でふるえる栞の手を握りしめ、私はなんとか笑おうとした。
「大丈夫、よ」
姉妹でよかった、ほんとうに。
だって――出発するのは、ほとんど同じ時間だから。