親子


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 神尾晴子(023)は、急いでいた。
 森の中の道なき道を、木の根につまずきながら、葉を顔に受けながら、ただひたすら地図に『W』と示されている場所を目指して。
 「頼む、無事に、無事にしててや…」


 あの後、参加者達はホールでゲームの説明を受けた後、5つのグループに分けられ、それぞれ移動させられた。そのとき、晴子は自分の娘、神尾観鈴(024)と離ればなれになってしまったのである。
 側面に『V』と書かれたトラックに乗せられ、着いた先は小さな小屋だった。壁にも大きく『V』の文字。
 彼女らは一度その小屋に移され、順に荷物を渡されて出発させられたのである。
 晴子は、出発するなり、手近な物陰に隠れて支給された地図を広げた。円で囲まれた『T』『U』『V』『W』『X』という印が、赤色で目立つように描かれていた。これがそれぞれのスタートポイントなのだろう。『V』の印は、島の南東側にあった。
 トラックに乗せられるときに確認した、観鈴の乗せられたトラックの番号。
「『W』…」
 晴子は、そこへ向けて一目散に駆けだした。


 晴子のグループ『V』には、彼女の家の居候の国崎往人(033)もいたが、それを待つことはしなかった。
 番号が近いから、ほぼ同時に出発しているはず。居場所のある程度わかる時期に動かないとわからなくなると考えたからだ。
 観鈴は仲間を作ることが出来ない。それが何よりも心配だった。自分が付いていてやらねばならない。
 『W』は島の南西側にあり、比較的『V』に近かったが、それでもかなりの距離があるように感じられたのは、島が思いの外大きいのか、それとも焦りのためか。
 もうたっぷり10分は走っただろうか。そのとき、
「あっ!」
 そのとき、木の陰に見えた人影、それはまさしく彼女の娘、観鈴であった。
 大急ぎで駆け寄る。
「よかった…もう会えへんかと思ったわ。一緒に…」
「来ないで!」
「え?」
 意外な返事に驚く晴子。
「何言ってるんや。一人より二人の方が絶対安全やし…」
「いや、ダメ、ダメ! お母さんと一緒にいたら、わたし、泣き出しちゃう。目立っちゃうよ! わたしは誰とも一緒にいちゃいけないの。だからダメ!」
「そんな…そんなんうちはかまわへん! せっかく会えたんや! 一緒に行こうや!」
「ダメえっ!」
「うわっ!」
 晴子がが足下に投げられたナイフにひるんでいる間に、観鈴は一目散に駆けだし、見えなくなってしまった。
 「ちょ、観鈴、観鈴ー!」

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