川名みさき(028)は絶望していた。
自分は目が見えない。
ゲームが始まる前から、既に脱落を宣言されているようなものである。
やる気になっている人は必ずいるだろう。
そんな人の前では、自分は無力なのだ。
(もう、いいか……)
幸い、自分の連れてこられたここは学校のようだった。
学校の構造なんてどこも似たようなものである。
最後に風を感じたかった。
武器の支給を辞退し、教室を出る。
壁を伝って、一歩一歩、ゆっくりと歩いた。
階段を見つけた。
一段一段、上がっていく。
そして、ドアがあらわれた。
カチャ……キィ……
鍵はかかっていなかった。
ドアを開け、屋上に出た。
出来ればフェンスの所まで歩きたかったが、そもそもあるかわからない。
そこで、二十歩歩いて止まることにした。
(一歩、二歩、三歩……
……十八、十九……二十歩)
腕を広げ、風を感じる。
思いのほか、暖かかった。
見えない目を閉じた。
こうしているだけで、あの学校の屋上を思い出せる。
屋上ばかりではない。小学校の頃から通っていた校舎まで。
全てが、自分の中にある。
(もう一度、帰りたかったな)
(浩平君に、会いたかったな)
(ゴメンね、雪ちゃん………)
その十分後、風とは違う音が聞こえた。
そして同時に、みさきの意識も、閉じていった。
「一体何をやってたんだろうな」
藤田浩之(077)は、屋上の縁で手を広げる少女を見つけ、支給武器であるオートボウガンの引き金を引いた。
矢は綺麗に少女の胸を貫き、バランスを崩した少女はまっ逆さまに落ちていった。
人を殺した。だが、何の感情も涌きはしない。
それよりも……
「かったりぃ、さっさと終わらせて帰るぜ、俺は」
028 川名みさき 死亡
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