目の前の光景。
血のついた制服姿で倒れている瑞佳。
血まみれの姿でナイフを持っている住井。
この状況から、浩平が想像したのは、一つの可能性。
「住井ぃ!」
叫ぶと同時に発砲。
「!?」
当たらなかった。さらに続けて叫ぶ。
「お前! 長森を……っ!」
「お、折原!? 違う、俺じゃないぞ、落ち着け!」
そう言って持っていたナイフを投げ捨てる。
だが、浩平は止まらなかった。
「黙れ! お前……信じてたのに!」
「おい、本当に落ち着け!」
住井の言う事も聞かず、発砲を繰り返す。
そして遂に、銃口が住井を捕らえ……
「やめんか、どアホッ!!」
七瀬のツッコミを食らい、そのまま地面に倒れ、意識を失った。
「悪い、本当に済まない!!」
「まったく……冗談じゃないぞ……」
落ち着きを取り戻し、一部始終を聞いた浩平は素直に謝った。
「ま、あの状況なら、疑われるのも無理はないが……それにしてもいきなりか」
「だから、悪かったって言ってるだろ」
「態度がでかいわっ!」
七瀬からまたもツッコミが入る。
浩平はこれ以上この件について話すのは止め、真剣な声で住井に訊ねた。
ひょっとしたら、こいつも……という恐れを秘めて。
「で、住井。長森が襲われてることを知らなかったんだろ。
お前、このゲームに……」
「違うね。離れた所から見てたが、あの女の子は見境がなくなってた。
無抵抗の女の子が助けを求めてるのに、殺そうとしたんだ。
気がついたら、体が動いてた。
助けの声が長森さんに似てると思ったけど、本当に長森さんだったなんてな。
血まみれの俺を見て、気を失ったんだ……」
浩平の言葉を遮り、言った。
「住井君……」
「そうか……悪かった。
結果的に長森を助けてくれたんだ、ありがとう。
これからどうするんだ? お前」
「そうだなぁ」
少しの間考え、そして言った。
「とりあえず、従兄弟がいたから、そいつと連絡取りたい。
北川潤って言うんだが、俺の従兄弟とは思えないくらい、馬鹿な奴だ」
その北川も同じことを住井に対して思っており、実際は二人とも殆ど同じ性格である。
だからこそ昔から、この二人は仲が良かった。
何かにつけて気が合い、馬鹿な悪さをして、よく怒られていた。
高校になってから会ってなかったが、こんな所で再開するとは。
人生なんててわからないものだ。
「じゃあそろそろ行くよ。
そうだ折原。長森さんと七瀬さんを守ってやれよ。
二度と目を離すんじゃないぞ」
「あぁ……」
「そうよ、あたしは乙女なんだから」
「そういうことだ、じゃあな、三人とも」
住井は立ち上がり、まだ気絶している長森の方にも目を向け、歩き出した。
そしてふと立ち止まり、つぶやく。
「あんなことは言ったが、無意識で人を殺したんだ。
折原、俺、狂ってるのかな?」
浩平には答えられなかった。
自分も勘違いし、逆上し、親友である住井を殺そうとしたのだ。
普段はわからない心の闇が、姿を覗かせているのかもしれない。
そしていずれ、俺も見境なく――
浮かんだ考えを否定し、住井に向かい言った。
「また、生きて会おうな」
「あぁ」
住井は、今度は、走り出した。