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「巳間晴香。晴香でいいわ。」
「私は保科智子。智子でええよ。そしてこの子は…」
そう言って、彼女は膝の上にのせた少女の頭をなでながらつぶやく。「神岸…あかり。」

私たちはあの後、森の中で見つけた洞窟に避難した。
あの少年は、すぐに姿を消した。深手のはずだが、また再び私達を襲う可能性もある。
なによりも意識を失ったままの少女…あかりを放ってはおけない。
智子と二人で肩を抱え、ここまで運んできた。

「かわいそうになぁ…神岸さん。こんな目に遭おて。」
「……」
私達がどんなに哀れんでみても、それは同情でしかない。自らの過去を振り返りながら
思う。辛かったあの日々を。そして、その思い出を汚す根源たる、忌むべき名を。
「高槻…」
「え、なんて。」
「このゲームの管理者。そして、私の目的…あいつを殺すことが。」
そう、あいつだ。あいつさえいなければ、あかりもこんな目に…
私も、あんな目には遭わなかっただろうに。
「怖いことを考えるんやね。」
「殺さなければ、生き残れないわ。違う?」
「…じゃあ、私達も殺すん?」
「いや…私が殺したいのは高槻だけ。他に殺したくはないわ。
それじゃあ、あいつの手の上で踊っているようなものだから。」
「どちらにしろ物騒やね。でも、それだけでいいん?」
何が…智子の質問がわからなかった。

「私達、このゲームの参加者の中には、来須川財閥の令嬢達もおるんよ。
つまり、それと同等もしくはそれ以上の組織が裏で動いとる。人一人殺せば済むもん
と違うし、第一、その高槻言うんかて相当な人数に守られとるんとちがうん?」
「……」
郁未がいれば、心強いのだけど。出発地点には、彼女はいなかった。
それと良祐。でも高槻を追っていれば、いつかは出会えるだろう。そんな気がする。
「わたしには別に目的はない。ただみんなで生きて帰りたいだけや。せやから、いいよ」
智子が私を見つめる。眼鏡の向こうにある、意志を持った目で。
「仲間がいるやろ。あいつら倒すんには。うちはアンタについて行く。
そしてもっと仲間を増やそ。大勢おれば、あいつらに立ち向かえるかもしれん。」

…正直、ありがたかった。孤独な戦いを強いられることを覚悟していたから。

「ありがとう。」素直に、言うことができた。

「ただ…」そう言って、あかりを見つめる智子。
「この子には、会わせてやりたい奴がおるんよ。そいつにこの子を預けんと、安心できへん」
「その人は、信用できるの?」
「私の知ってる中では、一番信用できるし、頼りになる奴や。お調子者やけどな。
私達にも協力してくれると思う。…なにより、この子にはあいつが必要やから。」
「そう…その人の名前は」
「藤田浩之。この子の幼馴染や。」

……浩之ちゃん。どうして。
闇の中から、銃を握った浩之が近づいてくる。皮肉そうな笑みを浮かべながら。
銃口は、確実にあかりの身体を狙っている。
やだ、いやだよ。なんで。どうして。
カチリ、と撃鉄に指をかける。
「じゃぁな、あかり。」
パン!
音と共に、意識がはじけ飛ぶ

「いやぁぁぁぁぁっ!」
双眸に光があふれる。そして、熱い、涙。
頭が真っ白になる。そして、今見た光景は意識から消えていく。
かわりに、自分の身に起きたこと…思い出したくない、イヤなことが意識に流れ込んできた。
もう、声も出なかった。ただ、涙があふれた。止まらなかった。
「神岸さん……」
聞き覚えのある声が、側から聞こえた。そして、別のほうから差し出された腕に、
私は頭を抱きかかえられた。
暖かかった。誰だかわからないその人は、なぜだか、私の悲しみをわかってくれているように感じた。
「辛くても、全てを受け止めなさい。そして自分で整理して、心の奥にしまってしまうの」
「わたしも、そうだったから」
そんな声が、心の中で響いた。

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