決別
「…月澪 052セリオ 055高瀬瑞希 063長岡志保 067名倉…」
その放送を聞いたとき、千堂和樹(053)は目の前が真っ暗になるのを感じた。
(瑞希が……死んだ……)
一瞬にして全身の力が抜ける、自らの体重を支えきれなくなった足は折れ、地面に膝をつく。
(嘘だ……嘘だ……)
うわごとのように繰り返す。
「嘘だ……嘘だ……嘘だ……」
次第に声は大きくなる、
「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ嘘だァァァァッ!」
絶叫がこだまする。
「どうしてだよ……なんでだよ……」
いつも一緒にいた存在、助けようと思ってた仲間、かけがえのない人、世界で一番好きだった人、自分の半身。
「みんな……みんなそろって助かろうと……誰一人欠けることなくまたあのこみパに戻ろうって……そう思ってたのに」
「どうしてお前が逝っちまうんだよ! 瑞希ぃッ!」
最初に掲げたみんなで助かろうという決意、もうかなわない願い。
いなくなってはじめてわかる。
最初に無くしたものは、一番大切なもの。
一歩も前に進むことが出来ない。
もうどうでもよくなった。
すべてを投げ出したくなった。
すでに肉体は自らを支えることを放棄し、地面に突っ伏していた。
「みんながいても……瑞希がいないんじゃぁな……」
そうつぶやき、和樹は意識を闇に閉ざした。
が、その闇から開放されたのはすぐだった。
「こんなところでなにをしておる、まいぶらざー」
聞き覚えのある声、その声の方向に身を起こす。
そこにいたのは九品仏大志(034)だった。
「大志か…」
力の無い声で返事をする和樹。
「どうしたのだMy同士、なにがあった」
「瑞希が……瑞希が……」
そう応えるのが精一杯だった、そこから先は言えなかった、涙をこらえるので精一杯だったから。
だか大志はいともあっさりと返す。
「ああ、知っている。我輩がやったのだから」
和樹の時が止まった。
大志の言葉はやけにあっさりとしたものだった。それが当然だといわんばかりに。
「おい、大志……いまなんつった」
「我輩が殺したのだ、まいしすたー瑞希を」
その言葉が終わる前に、身体が動いていた。全力で大志を殴りつける。
「大志…てめェ…なぜ殺した!」
「邪魔だったからな」
「貴様ぁッ!」
もう一発、和樹は大志の顔面を殴りつけた。
「仕方あるまい、ここはそういう世界だ。殺らなければこちらが殺られる。我輩は死ぬわけにはいかんのだ!」
和樹は腹部に鈍い衝撃を受け、崩れ落ちる。
「和樹よ、一時期とは言え貴様と我輩は同じ目的のために戦った同士だ。よって今回は命は助けてやろう」
「ぐっ…待ちやが…れ…」
「もう二度と我輩の前に姿をあらわすな。我輩は貴様を殺したくはないのでな」
先ほどとは違った感覚で意識が闇に包まれていく。
「……すまない、あさひちゃんの為、我輩は修羅に落ちるしかないのだ」
薄れゆく意識の中、そんな言葉が聞こえた気がした。