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「うわー、なんで俺裸なんだっ……!!」
耕一は自分の姿を見て赤面する。
「さあ、それは私に言われても、あ、私じゃないわよ?」
郁未が早口で言いきる。

耕一がある衝撃で目を覚ましてから約5分。
本当はすぐにでも行動に移したかった郁未だが、状況整理のためにも
お互いのことを確認しておく必要があった。
自己紹介を済ませ、敵意がないことを伝え、
それぞれの経緯を…というところで、耕一はようやく自分の置かれている
立場に気がついた……体の。
微量とはいえ、鬼の力を解放したのだ。


「ううっ、見たな、俺の赤裸々な部分をっ……」
「見てない、見てないよ、うん。」
その前にそれを隠してくれ、という言葉を郁未はなんとか飲みこんだ。
「うう、せめて下着くらいは残ってくれよ…俺の服。」
漫画やアニメじゃないんだから仕方ないけどさ…。


お互い背中越しに会話を進める。
「そういえば、支給された武器ってなんだろう…?確認してねえや。」
「見てないの?はい、これ。」
すでに気を許してる(というか、許してしまった)郁未はデイバックを背中越しに
耕一に放る。
「……オイ」
「どったの?」
その反応に思わず覗きこむ。
「い、いや、これは…」
慌ててそれを遠ざけるがもう遅い。
「ぷっ……あははっ!!」
「バ、バカッ、違うぞ。俺はだな…」
何も違わない。

今日2度目の涙。
それは、そこだけありふれた日常として切り取ったように滑稽で。

「ふふ、よかったじゃない。下着が見つかって……プッ」
「わ!!…………笑うなよ……」
耕一は膝小僧を抱えこむ。その姿はひどく小さく見えた。……別のイミで。
「これは……さすがに……武器か?オイ。」
黒い三角形。ブルマともよぶ。

割と高性能のようで、局部には鉄板が内側から貼りつけられている。
確かにこれを装備することで急所は守られそうだ。
「しかも男用……ププ」
「いや、上半身裸で、下は……コレか…?イヤすぎ。」
郁未はすでに腹部に相当のダメージを負っていた。幸い外傷はない。
「も、もうダメかも……」
「それよりお前はどうなんだよ!」
郁未の体が固まる。
「え…?私は別にいいよ……」
「いや、ダメだ。見る。」
「ちょっ……待っ……!」
「……」
「……」
「……コレは?」
「……ノコ……」
「……えっ?」
「キノコよっ!悪かったわね!きっと毒入りかなんかだと…思う…かな?」
その声はだんだんとしおれていく。
「そっか…キノコか…」
耕一は遠い目をして空を見上げた。
「ど、どうしたの……?」
「使いようによってはさ…武器になるんだぜ、きっと……(経験者はカタル)」
「……??」

「夢を見てたんだ……」
「えっ?」
「湖のほとりで…初めて人を殺した。」
震える両手を呆然と眺める。
「……」
「何も聞かないんだな。」
「…そうね。」
「……」
「……」
静寂が二人を包む。
「俺……うなされてたか?」
「ううん…むしろ……いや、なんでもない。忘れて。」
「…そうか。」
本当の寝言は違ったけど、この場を茶化すことなんて出来ない。
雰囲気がそう言っていた。
「そろそろ行きましょう。みんなを助けに。」
「ああ……」

男を信用し、先程の放送の件をありのままに郁未は伝えた。
耕一は護りたい人がいると言った。
それだけで充分だったから。
出来る限りの人を救って、そして高槻をギャフンと言わせる。
綺麗事かもしれないけど。

「でも、ホントにこの格好でいくのか…」
黒い三角形。
「安心して、もう少しマシな方法があるから。」


歩きながら呟く。
「……あのー、下がスースーするんすけど。」
「私だって恥ずかしいんだから勘弁して。」
郁未は従来の制服を上だけ着ていた。
下には黒い下着…もとい、貞操帯。
「せめてパンツだけでも…」
「さすがにイヤ…スカートだけで我慢してよね!」
「うう、間違ってもハイキックなんてできやしないぞ。」
精神的にもダメージを与えられるかもしれないが。


本当はもう一つ選択肢があった。だが、それは二人には考え付いても口には出せなかった。
死者への冒涜、こんなときでもそれだけはしたくなかった。
そう思った瞬間、耕一は自分の汚した手の重さを感じ、心で泣いた。

未だ効果不明のキノコ【残り 5個】

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