銃声が聞こえた。
まさか――
栞と別れたのは、今さっきだ。
人の気配なんてなかったはずなのに。
まさか――
まさか……
まさかっ……!?
世界が色を失った。
最愛の妹が、笑顔で横たわっていた。
「うそ……でしょ……
ねぇ、しおりぃ、うそだよね?
ねぇ? ねぇってば? どうしてへんじをしてくれないの?
ねぇ、しおりぃ……」
栞の死体に向かって叫ぶ。
反応はない。当然だ、死んでいるのだから。
理解はしていた、こんなことは無駄だと。
だけど、感情の一番奥で、その事実を認めることができなかった。
「大声出すと、近所迷惑ですよ?」
「――っ!?」
目の前に三つ編みの女の子が立っていた。
その女の子は血のついた制服を着て、右手には銃を持っていて。
「あなたなの? 栞を殺したの……」
「はい」
「……あなたが……あなたがぁっ!!」
ばっと立ち上がり、メリケンサックをはめた右手で殴り掛かる。
茜はその動きを読み、無理のない最低限の動きでかわしてみせた。
すれ違いざまに足をかける。
「!?」
そしてそのまま、バランスを崩して地面に倒れ伏した香里に、ナイフを突き刺した。
香里は全身の力を失い、立ち上がることさえできなかった。
立って、栞の仇を……
この女を、殺してやりたいのに。
痛みと悔しさに、涙がこぼれた。
「……どうして……どうして栞が……」
「あなたの妹さんですか。あなたが側にいてやれば、こんなことにはならなかったと思います。
どちらにしろ、私が殺したと思いますけど」
そうだ、自分はやはり離れるべきではなかったのに。
ずっとずっと、側についていなければならなかったのに。
(私が栞を殺したも同然だわ……栞……)
絶望に沈む香里に追い討ちをかける言葉。
「妹さんの伝言です。私が死ねば、お姉ちゃんの足手纏いにならなくてすむと。
妹さんの思い、無駄になりましたね」
香里に同情するつもりはさらさらなかった。
わずかな時間とはいえ、大切な人の側から離れたのだ。
(自業自得……)
本当に大切なら、何があっても一緒にいるべきだ。
それは自分に対する戒めでもあった。
幼馴染みを、この世界につなぎ止められなかった、自分への。
香里の心は、最後に別の方向へ向いた。
「……相沢君、恨むわよ……」
(相沢……ゆういち。
相沢祐一……まさか、本当に?)
香里の死体からメリケンサックを抜き取りながら――格闘はあまり得意ではないだろうが、何か役に立つかもしれない――茜は思った。
このゲームで、絶対に私には殺せないだろう人がいる。
それは当然、柚木詩子。
もし本当に、相沢祐一がここにいるのなら。
(――殺せる? 私は……)
085美坂香里 死亡
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