屋根に大きく「4」の数字の描かれた建物が、目の前にある。
「○○○公民館」
出発地点の一つだ。
「かなり歩いたけど、ここまで誰にもあわんかったなぁ。ま、しゃあない」
…気楽な物言いね。
初めて出会った時は、震えながら銃を構えていたくせに…
「さ、行こか。」
いつのまにか、私よりも先を歩いている。
…いい仲間ができたものだわ。
そして、もう一人に視線を合わせる。
「あかり。」
「…はい。」
両肩に手をのせて、言い聞かせる
「あなたはここに残って。いい、動いちゃだめ。」
「だけど…」
「晴香の言うとおりや。後詰も立派な仕事。神岸さんが後ろについてるから、
私らも安心して動けるんよ。」
そう、彼女の武器は強力だ。私や、智子のものよりも。
小型特殊爆弾…クマ型の。
説明書によれば、目の前の建物くらい簡単に吹き飛ばせる。いや、それ以上の威力の。
だけど、本当はそんな物を期待してなんかいない。智子も同じだろう。
…中に入れば、この手を血で汚すことになる。
別にそんなことはどうでもいい。ただ、そんな姿をあかりには見せたくない。
まだ、彼女の心は不安定なんだから。これ以上の負担は、かけたくない。
安心させるため、出来るだけの笑顔を向ける。
「じゃあ、行って来る。」
「…二手に分かれた方がええなぁ。」
「私はいいけど、智子、危険じゃない?」
「大丈夫。十分練習はした。うまく使えると思うし、弾もぎょうさんある。」
私達は建物の裏に回りこんだ。裏には入り口が一つあったが、
そこは使わず、窓から侵入することにした。
目的は…高槻の居場所を探ること。
たぶんここに高槻はいない。こんな建物でなく、奴ならもっと安全な所にいるだろう。
ただ、手がかりはあるはずだ。それを見つけるため、あえて危険を冒すことにした。
「先、行くな。」
窓に、智子が手をかける。幸い、カギはかかっていない。
するり、と中に忍び込む。…意外と、身軽なのね。
別の窓に駆け寄り、窓を開ける。
…ここもカギがかかっていない。
鞘から刀を抜き、注意しながら中に飛び込んだ。
「なんや…これは。」
智子が見たのは、真っ赤に染まったカーペット。
その中に、野戦服の男が一人、倒れていた。
「晴香やない…なぁ」
そのはずはない。自分の方が先に、中に入ったのだから。
「誰が、こんなん」
注意を払いながら、廊下へと出る。
…ここにも。
やはり、そこにあるのは死体。
周囲に、人気はなかった。
脇の階段を上る。踊り場にも死体が。
「いったい…何人死んでるんや。」
「8人だよ、委員長」
聞きなれた声。聞きたかった声。振り向く。
…そこには、気だるそうに銃を構えた、藤田浩之がいた。
「久しぶりだな。」
構えを崩さず、声をかけてくる。
「藤田君、無事やったんやね。」
「ああ。おかげさまで」
そう言いながら、カチリ、と親指を引く。
「でも、もうお別れだ」
「な、なに言うてんの。冗談はやめとき!」
「冗談なんかじゃないさ。…生き残るのは、この俺だけでいい。」
…うそや、うそや、そんなん。
一番信頼していた。会えさえすれば、きっと全てうまくいく。そう思てたのに。
こんなん、こんなん嫌や…
「智子おっ!」
銃を構えた男が、階段の上にいる智子を狙っていた。
晴香は、わずかながらの力を開放しながら、薙ぐようにして男に切りつける。
キン!
男は、いつのまにかもう一方の手にナイフを持ち、彼女の一撃をかわした。
速い。
「ちっ!」
そう舌打ちすると、男は奥の部屋へと姿を消した。
「智子、大丈夫?」
「…あ、うん」
おぼつかない足どりで、階段を下りる。
「奥の部屋へ入ったわ。さあ、早く」
…行きたくない。現実を直視できない。
晴香に手を引かれるようにして、部屋の前へ来る。
「行くわよ」
ドアを開ける。その部屋の中は…
燃えさかる炎につつまれて…
「委員長!」
炎の向こう、多分、窓の外からだろう。声が聞こえる。
「次に会うときには、この決着をつけようぜ」
そういい残して。あのひとは
私達のもとから姿を消した。